第15話
「……こちらは日向様にお聞きしているのであって、あなたにはお聞きしていないのですが?」
「それが? 紬はこんな性格だから嫌だと思っていてもそれを断ることができないのよ。それをあたしが勝手に代弁しているだけ。何か問題でも?」
「自分の意思を自分で伝えられないとは。朝比奈様とご結婚されていることが嘆かわしいですね?」
「……」
「本当、それには同意してあげるわ」
突然の莉子ちゃんの同調に、相手が驚く。感心したように「へぇ?」と小さく声を漏らした。しかし、続く言葉に氷の様に固まった。
「紬の相手には本当に相応しくない。せいぜい、紬の妹の華とよろしくやっていればいいんじゃない?」
ピシッと音がしたようにも感じたけれど、私の方はそれどころではない。莉子ちゃんに慌てて縋り付いて、待って待ってと止めに入る。場所が場所なだけに、このままここで話が進んでいくのはとてもよろしくない。
私は莉子ちゃんを掴みながら目の前で固まっている彼に声をかけて外に行きましょうと言い、二人と一緒に外に出ることとなったのだった。
「おい女! お前、翔のことを侮辱しやがって!!」
「侮辱はしてないでしょ。女を見る目がないねーって言っただけじゃない。どこが侮辱よ、現実見なさいって忠告してあげているだけだわ」
「それを侮辱と言うだろ!?」
「だから【忠告】って言ってるでしょ。大体ね、何をどうやったら結婚する相手を間違えるのよ。意味わからない」
「騙されたに決まってるだろ!? その女に!」
「はぁ? それこそありえない話でしょ。それよりも、紬に話ってなによ。早くしてくれる? 昼休憩終わっちゃうじゃない」
「お前余計なことを言ったからだろ! それと、貴様も図に乗るのもいい加減にしろよ!?」
「…………突然すぎるお言葉で、なにに対しておっしゃらているのか、わかりません。林様」
「とぼける気かよ! 親父を唆して、お袋につけ入り、うちに出入りまでしやがって!」
ああ、そのことか。なるほど、この人の目にはそういうふうに見えていたらしい。……どこまで、私は悪役になればいいのだろう。
摩耗していく心がそろそろ擦り切れる分すら無くなってしまいそうになる。それでも、きっとこの人は私の話なんて聞かないだろうし、聞く気もないのだろう。私は、スマホを取り出してアドレスを出し、それぞれにメッセージを送る。
送信完了を確認してからもう一度アドレスを取り出し、たった五人だけしか入っていないアドレスを林様に見せつけるように画面を見せた。
「ようは、私のこのスマホから、あなた様のご両親の連絡先を消してくれと、そういうことなのですよね?」
「当たり前だろ! 貸せ! 俺が消してやるっ!!」
「そのようなことはなさらなくてもいいです」
「はぁ!?」
私の否定の言葉が気に食わなかったのだろう、勢いよく伸ばされた手をまるで避けるような形でスマホを振り上げてしまったため、彼の手が私の頬に伸び切ってしまい、爪が私の頬を傷つける。スマホを取り上げるためとはいえ、そこまで強い力で取ろうとしていることに対して、彼がきっと両親のことを大切にしているのがわかる瞬間でもあった。
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