第12話

二人の関係はきっと、信頼しあって、愛し合っている関係なんだと思う。


 けれど、私は書類上で婚姻関係を結んだ、いわば本当にただの【契約】で、しかもその【契約】も1年後には破棄される約束がされている。どれほど長い夢見たって、私にはこういう幸せが手に入らないのだと既に理解しているからこそ、羨望という感情が出て来てしまったのだろう。


 そして、目の前で仲良く料理をしている二人が、私の様子に気付く程度には、私はぼうっと二人を見ていたらしい。



「……紬ちゃん?」


「!」


「どうかしたの? ぼうっとしていたけれど……」


「……いえ、なんでもないんです。気になさらないでください」


「………ちょっと外れるわね、ダーリン」


「いいよ、ハニー。任せた」


「はぁーい」



 そういって、手を洗って身につけているエプロンで手を拭きながらキッチンから出て来た奥様は、私のそばまでとことこと歩いて来たかと思うと、そのまま隣にすとんと座り流れで私の体をぎゅうっと抱きしめて来た。



「!? あ、あの!?」


「子供が我慢ばかりするものじゃないわ。辛いなら辛いと言わないと。泣きたいなら泣かないと。あなたが壊れてしまうでしょう?」


「……私は、別に……」


「認めたくないのね。そう、それでもいいわ。でも、自分で自分を追い詰めるのだけはダメよ」


「……」


「紬ちゃんの事は、紬ちゃん自身が一番分かっているなんて、そんな風に自分で自分を驕らないで。自分のことは、自分が一番わからない瞬間だってあるんだから。ね?」


「……で、も、あの……私は……」


「はい、こーんなくらいお話はもう終わり! わたしが疲れちゃうわ! そうだ。今更だけれど、食べれない食べ物とかはない? アレルギーとかは?」


「へ、あ、いえ、特にはないと……」


「良かったわ! って言っても、今作っているのはみんなで楽しく食べられるお料理なんだけれどね」


「?」


「はい、できたよ。ハニー、そこにガスコンロを設置してくれるかい?」


「はーい」



 そう言って、林さんが持って来たのは大きな鉄鍋。中に入って具材が煮詰まってぐつぐつと沸騰を小さく繰り返している。



「わ、すき焼き……」


「そう! だいっすきなの! わたし!」


「でも今日は日向様がお客様なのだから、少しは我慢するようにね」


「うぅ……はぁい……」


「あ、い、いえ、そんなにたくさんは食べられないですし、たくさん食べてください!」


「本当に!? やったぁ!」


「全く……申し訳ありません、日向様」


「あの、林さんも、わたしのことはそのように呼ばないでください。敬語も不要です」


「え、いえですが……」


「私たちは、そのうち本当に会えなくなってしまいますから……」



 思わずこぼれてしまった本音に、ハッとしたのは二人があまりにも驚いたようにわたしを見つめて来たからだ。

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