第10話
「お前に言われずとも、すでにやった! いいか、これ以上、僕の邪魔をするな! さっさと引っ込んでいろ!!」
「……わかりました。失礼いたします」
そう言って、私は朝比奈さんに頭を下げる。そして、林さんに申し訳ありませんと謝罪を述べてそのまま部屋に引き籠るために歩き出そうとしてけれど、グッと手首を掴まれて引き止められる。
驚いて視線を動かせば、そこにはにこやかに笑った林さんがいて。
「は、林さん……?」
「日向様は、しばらくお借りしましょう。何、日付が変わる前にはこちらにお送りすることをお約束します。その間、我が愚息をここにおくことをお許しいただけますかな? 翔様?」
「林、何を言って……」
「お許し、いただけますよね、翔様?」
「え、あ、ああ……わ。わかった……」
「では、愚息をあなたがここまで呼んでください。連絡先ぐらいはご存知でしょう」
「それは、まあ……」
「ああ、ここにくる際は階段で駆け上ってこいとわたくしめが言っていたとお伝えを。エレベーターはわたくし達が使いますから。万一遭遇しないように」
「へ、でもここ、35階……」
「若者が何をいうのやら。少しは体を動かすべきだと思いますよ。それとも、この老骨と可憐なお嬢さんをまさか階段で下ろすなどと鬼畜なことはおっしゃりますまい?」
「……わ、わかった……」
私の傍で会話がどんどんと進んでいき、あれよあれよというまに話がまとまってしまう。
私はズルズルと引きずられるようにその場を後にするしかできなかった。怖くて後ろを振り向けなかったのは、仕方がないと思います……。
**
「さて。無理矢理に申し訳ありませんでした、日向様」
「あ、いえ……あの、えっと……」
「これから、我が家に向かいます。どうぞ?」
「へ、あ、はい……」
流れるようにそう言われてほとんど何も考えずに返事をして体を動かしてしまったけれど、乗り込んでからハッとした。
「林さんのお宅にいくのですか!? い、いえ、そんな無礼なことは……っ!」
「なに、家内にも既に連絡してありますのでお気になさらないでください。さぁ、行きますよ」
「ちょっとまっ……!」
私の言葉の抵抗虚しく、林さんはニッコニコの笑顔でそのまま車を発進させてしまったのだった……。な、何がどうなっているのでしょう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます