第8話
「自分でコネクトが取れるなら自分でやりなさいよ、いつまで他人に寄生するつもり?」
「やだなー、莉子先輩。わたしだって一応許可を取ろうと考えての行動ですよ? たとえ、相手が役立たずの女で、一年で離婚を約束させられたとはいえ、書類上ではその女が翔さんの妻なんておおそれた地位にいるんですもん。大切なことでしょう?」
「……そう。やっぱりあんたのことは嫌いだわ。紬、行こ」
「あ、」
「えー、行っちゃうんですか? 今からここに翔さんがきてくれるのに?」
「あいにくと、興味がないのよね。じゃ、そういうことだから」
「ざーんねん。じゃ、また会いましょうねー」
そういって、スマホを片手にひらひらと手を振ってくる華に背を向けて会社に向かって歩く莉子ちゃんに引っ張られながら、私は、今夜に起こるであろう罵倒の数々を予想しながら午後の仕事に就くことになったのだった。
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仕事終わりには昨日と同じで車の迎えが来ている。しかも、今度は会社の目の前。流石にここで乗り込みたくはないんだけどと思い、ちらと車の中を見れば、運転席には男性が乗っており、昨日と同じ林さんだと認識する。……彼に対して流石にスルーするのは申し訳無いな。
その気持ちだけで、私は仕方なく、今現在も扉を開けれ紳士然とした微笑みで私にだけ圧をかけてくる彼に頭を下げてから車に乗り込み、昨日と同じで扉を思いきいしめられる。体がビクッとなったのを林さんに心配されながら大丈夫ですと笑みで返しながら、彼が車に乗り込んできた時にはすぐに下を向いて視線があわないようにと配慮をしてマンションに着くのをまったのだった。
ありがとうございます、と言葉をかけて車を降りれば、なぜか運転席に乗っていた林さんが同じように降りてきて、私の後ろにぴたりと張り付くように立ってくる。
「……あ、あの、林さん?」
「今日は、このわたくしめも一緒にお部屋までお供いたしましょう」
「え、あの、でも……」
「何、車は息子が乗っているので問題はございません。お気になさらずに」
「は、はぁ……」
そう入っても、助手席に乗っている彼、めっちゃくちゃ怒っているような表情なんだけど……本当に大丈夫なんだろうかと思いつつ、私は車に乗っている人に頭を下げてそのまま林さんと共にマンションの自宅に戻って行ったのだった。
先にリビングに入り、昨日約束をした通り、紙に書いた文字を読むために持ち上げれば、大雑把ではあるけれど、きちんと記入はされている。
……よっぽど私と遭遇するのが嫌なんだろうなと思いつつ、これで私も、ある程度穏やかに過ごすことができるというもの。さらっと読み終わったそれを、私は細切れにして近くのゴミ箱に捨てる。
そんな私の行動を不思議そうに見つめていた林さんと目が合い、ハッとして私は慌て謝罪をした。
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