第6話

自分用に朝食を軽く作り、その傍でお昼ご飯を詰めていく。冷蔵庫などを借りて作り置きをしている分もあるため、それを小さなカップにちまちまと詰め替えてお弁当箱に詰めていく。お昼のお弁当の準備が全て終わってから、私は食パンにかじりついて、一応のお腹を満たす。そうしてから、私は会社に出勤するのだった。


 朝の出勤はなぜか1人で行かせてもらえるため、ここは普通にそうさせてもらっている。むしろなぜ帰りだけお迎えがくるのか謎であるのだけれど。


 まあそれは仕方がないと思いながらマンションを出た瞬間、私はそのままUターンをしそうになった。


 ……なぜまだあの人はマンション前にいるんだろうか。いや、それよりもあの人のすぐそばにいるあの人物のせいなのは間違い無いけれど。


 どうしよう。本当に行きたくない。けれど、今この時間に行かないといつもの時間に間に合わない。別に遅刻するわけではないけれど、それでもなんだかもやっとした気持ちにはなるため、その場から動けなくなってしまった。


 と、これまた運悪く視線があってしまったのだ。



(……ああ、ここに突っ立っていたから……遠回りでも、迂回すればよかった……)



 視線があったのは朝比奈さん。私をその視界に入れた瞬間、ものすごく嫌そうな表情をされて、そばにいた小さな影をまるで私から隠し守るようにエスコートしてその場からさっさと離れていく。よく見れば、そばにあるあの車は昨日、私を自宅まで案内してくれた車ではないか。


 林さんには挨拶ぐらいしたかったけれど、この状況では無理なことに変わりはない。


 無駄だと分かっていても、私はとりあえず礼儀として、その場で頭を下げて車が発進したのを確認してから再び歩き出した。






 ようやく会社に着いたなと自分でもびっくりするくらい安堵している。


 もしかしたら、この会社で仕事をしている時が一番安全なのかもしれないと本気で思ってしまう。


 煩わしさを感じてしまう噂はあれど、直接的に何かをされることもないため、精神的に安全なのかもしれないと考える。職場の階に行くためにエレベーターに乗れば、ちょうど莉子ちゃんも出勤してきており、少しだけ楽しくおしゃべりをしてもらいながら莉子ちゃんとは階が違うため、別れる。自分のデスクについて、私はようやく心穏やかな自分を自覚し、仕事を再開したのだった。

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