第3話

私の様子を見て莉子ちゃんも諦めたのか一旦休戦状態なのか、私と同じようにご飯を食べ始める。本当だったら、【あんなこと】が起こったばかりだったため、社食には行きにくかったので、外で食べようかなとも思ったけれど、莉子ちゃんがお昼を買っていなかったということもあり、安いから社食にしようと言うことになったのだ。その話が出た段階でこうして噂されるのは覚悟していたので特に気に留めることもなく私はただ普通の態度を貫いていた。



「……そういえば、よく仕事を認めてもらったわね。自分で交渉したの?」


「? ううん、朝比奈さんの方が働けって」


「……? 【働け】?」


「うん。どうせ、1年後には離婚の予定だし、私に対してお金を出すことは一切しないからって」


「………………ちょっとまって。いま聞き捨てならない言葉を聞いた」


「? 何が?」


「1年後に離婚? は? 何それ?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「いま初耳だけど」


「えっと。ほら、私と間違えて届け出を出しちゃったけど、すぐに離婚するのは外聞も悪いからって、1年後に離婚する約束になったの。まあ、私も別にそれでいいかなって思っているし、特に問題はないけど」


「いやいやいやいや。問題大ありでしょう。というか、紬のためにお金は出さないって宣言してんの?」


「うん。された。流石に家賃とか、水道光熱費出すって言ってくださったけど、それ以外は一切援助しないって」


「器が小さい男だなちくしょう!!」



 まあ、本来なら妹と結婚しているはずで、もしそれが現実になっていたのなら、朝比奈さんだって幸せいっぱいだったんだろうししょうがないかなとは思っている。幸い、私には趣味と呼べるものはほとんどないし、お金の使い道も生きていく上で必要な経費と本を買うぐらいだったため、正直、援助してもらわなくともなんとでもなる。むしろ家賃やら水道光熱費やらが浮いた分、貯金に回してしまえるので有り難い。


 と莉子ちゃんにいえば、凄く微妙な表情でそうかもしれないけどさ、と歯切れ悪く言葉を飲み込んでしまう。


 まあ、正直、帰る家があって、自分であたたかなご飯を作ることができるのなら正直になんでもいい。生きていく上で必要なスキルは身につけているし、誰かに依存して生きていかなければならないほど弱いとは思っていない。



「1年後には、私も朝比奈さんっている【楔】から解放されるんだと思えば、我慢できるよ」



 そう言ったタイミングでちょうど頃合いの時間になり、私たちはそれぞれ仕事に戻ったのだった。

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