4月 歪な関係
第2話
「はああああぁぁぁぁああっ!?」
「莉子ちゃん、声が大きい……」
叫んだ親友の莉子ちゃんに、私は慌てて声をかける。目の前に座っているショートカットを茶色く染めた、少し怖めの表情の親友はそれでも憤りおさまらず声を上げる。
「だって、だって! はぁっ!? 何様のつもりなの!? 意味わかんない!! とっとと離婚しなさいよ!!」
「それは無理だよ、私に決定権はないもの。それに、仕事を続けられるのは嬉しいな。こうやって莉子ちゃんとお話しもできるし」
「それはあたしも嬉しいけどね!? ちょっと自分勝手過ぎないかい!?」
「ううん。きっと朝比奈さんは妹と結婚できると思っていたからこそ、ああ言う態度になっているだけだと思うし。あまり気にしない方がいいかなって」
「……しかしまぁ、キャリアを持った大の大人の男がね? 普通、年下である女性をねちねちといじめるかね? いいや、許せん!!」
「ふふっ、そうやって、莉子ちゃんが私のことを考えてくれていることが嬉しいから。もうどうでもいいかな」
そう言って、私は目の前にあるお弁当をつつく。口に運んで咀嚼していれば、莉子ちゃんがじっと見つめていることに気かづいて、卵焼きをヒョイっと目の前に差し出せば迷うことなくそれにぱくつく。
そんな様子を微笑ましく思いながら笑って見つめていると、莉子ちゃんはハッとしたように「違う違う!」と声を再び出す。
場所は社食。社会人である私はもちろん、会社に就職して働き、自分でお金を稼いでいる。目の前にいるのは、幼い頃から一緒に過ごしてくれている大親友である村上莉子ちゃん。私の家庭環境が複雑なことも含めて知っているため、何かと私のことを気にかけてくれているのだ。
まさか、高校大学、それに就職先まで一緒だとは思わなかったけれど、莉子ちゃんに私のことは気にしなくてもいいんだよと一度言ったら「気にしているのは確かだけれど、あたしは紬に人生は捧げてないから安心なさい」とバッサリと言われたことがあるため、それ以降は気にしないようにしている。
しかし。と考えるものがあるのは確かだ。
「ちょっと、あの子よ、あの子!」
「えー、嘘〜……めっちゃ地味で目立たない子じゃん!?」
「ね、なんであんな子が憧れの君を……!!」
そう言ってヒソヒソと話をされているのは間違いなく私のことである。
まあ、認めたくないのはよくわかる。私はただの一平社員としてこの会社に就職し、一平社員として働いている一人の女でしかない。ただ、私の親の会社、と言うことを除けば、だ。
要するに、私はコネで入ったも同然のため、働く時は一般社員からにしてほしいとお願いをしたのだ。
そこらへんの事情も、莉子ちゃんはもちろん知っている。
彼女の場合は本当に実力で就職の内定を決定させたのだからさすがとしか言いようがない。
そんなヒソヒソ噂話を耳に勝手に入れながら、私はそれでもご飯を食べる。
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