第7話

鍵を開けてエレベーターに乗り込んで目的の階のボタンを押して、菊池と表札のある部屋の鍵を開けて中に入る。



鍵を締めてパンプスを脱ぎ捨てて手を洗って、部屋に入れば野菜がお湯で煮込まれてる匂いがして。




シチューか、と自分のリクエストを思い出しながら鞄を放り投げてキッチンに吸い込まれるように足を向ける。





「お、おかえり」



「…ただいま」





サラダ用なのか葉っぱを千切っていたその背中に抱き付けば嬉しそうに頭だけ振り返ってつむじにキスをされる。




うえ。



気恥ずかしいのを誤魔化すようにキスされたつむじを背中にぐりぐり押し付けていれば。





「お腹空いてる?待てる?シチューがあと少し時間かかんだけど」





あとちょっと、といつの間に手を洗ったのかくるりと向きを変えてあたしを正面から抱き締めるその顔を見上げて。





雛世ひなせくん」



「なに?清白すずは



「会社でもそれくらい優しくしてんくない?!温度差で風邪引きそう!」





会社で1日、小指をぶつけて欲しいと呪っていた憎き課長である男を見上げて泣きついた。





「清白こそ俺の事般若みたいな顔で睨むじゃん」



「だって会社での雛世くん本当に嫌い!」



「軽率に俺の心を抉ってくんのやめない?」



「昔から嫌い!」



「追い打ちかよ」





会社で嫌いと抱き着いた腕に力を込めながら締め付けていれば、あたし大好きな雛世くんはやめてと悲しそうにしながらもあたしを引き剥がそうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る