異界への線路 1
運動能力 中の中。ビジュアル 中の中。
性格 クラスメイト曰く「シャイというわけでもないし、社交的というわけでもない。明るくもないし、暗くもない。無難なちょうどいい性格」。
特別秀でた特技があるわけでもない。
身長 170センチ。体重63キロ。焦茶色の髪色と瞳色。唯一、中の中でないとすればこの視力であろう。
薄ぼんやりとしてピントの合わない裸眼。おのずと個性は『眼鏡』になる。
あだ名は、小・中と『ハリー』『新八』だったが、高校では名前の《照》の音読みで『ショウメイ』に落ち着いていた。
そんなショウメイ───もとい 坂本 照明は、4月4日の午後5時2分、曇り空の下の産婦人科でオギャーと誕生した。
オギャーと誕生して以来、サラリーマンの父とパン屋パートの母の元で、適度に風邪を引き、適度に怪我をして適度に心配させながら、適度な充足感と不満を持ちつつすくすくと育っていった。
そんな、波風がそこそこ立ったかと思えばそこそこ穏やかになる毎日を送るショウメイが、なんともまぁキテレツ────なモノに鋭い興味を抱いたのは、ある意味では…もしかしたら当然。だったのかもしれない────……。
♦️
「なァな〜〜〜〜〜〜〜。い〜じゃねえかショウメイくんよーーーーーー。坂本 ショウメイく〜〜〜〜〜ん」
ここは都心から離れた田舎町。
田舎といってもド田舎というわけじゃない。
ある程度のショッピングモールや飲食店、コンビニやドラッグストア、カラオケ店はある。でも車が生活に必須な、そんな町。名を『
その町の駅の玄関口に先の少年『ショウメイ』は、居た。七ツ橋高校の制服───白いスクールシャツにチェック柄のネクタイを締め、淡い黒色のフード付き上着を着ている。
深い紺色のズボンに白いスニーカーを履き、交通安全のお守りを付けた黒色のバックパックを背負っている。メガネ奥の、D判定0.2以下の両目で、手に持った藍色の携帯電話端末機の画面をジっ……と見ているが、特別なにかを見ているわけではない。手放せないだけだ。
タクシーに乗り込むキャリーバッグを引いた男性やら、タクシーを降りる初老の女性。老若男女が出入りするまあまあ、せわしない玄関口。そこにショウメイは、3人の同一制服を着た男子と向き合っていた。困惑顔で。
「さあ、共に見上げよう。宇宙の空を!」
「ドキドキ!ワクワク!宇宙との交信!」
「いざ参らん奇妙な世界へ!!!」
効果音にするなら『ドドン!!!』であろう。戦隊ヒーローのようにポーズを決める3人組。名を『田中』『村田』『池田』という。
真ん中でポーズをとっている大柄の男子が田中で、右でポーズをとっている前髪が鬱陶しいマッシュルームヘアーが村田、左でポーズをとっている小柄なボーズが池田である。ショウメイの友達。
いつものメンバーいつメンだ。
そんな彼らを、ジトっ…とした目で一瞥するショウメイ。困り果てて申し訳なさげな雰囲気だ。そして、重い口を開け一言。
「……………………。行かない」
「!?!?!!?????なんでだよオォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!!!」
「行かない」
「なんで!!どうして!!そーいう事をォォォォォォォォォォーーーーーーー!!!」
「オレら『不思議物探求部』の絆はその程度の物だったのか!??ショウメイよっ!!」
「テルアキな」
田中、村田、池田が大絶叫する。
「不思議物を探求するのがウチの部の活動指針だろ!?あの世に幽霊、オーパーツ、日本の成り立ち、人類の起源、世界の真実───………そして、宇宙!!」
「今日は『宇宙との交信』の日だぜ!?不思議物探求部、月一の超重要イベント……宇宙との交信だぜ!?それをほっぽってまで帰るっつーんだからよ!そーとーな用事なんだろうな、ショウメイ!!!」
「宇宙との交信にはお前のキーボードの音色が必要なんだよ!」
ショウメイは七ツ橋高等学校『不思議物探求部』に所属している。
その名の通り不思議な物を探求するのだ。
ショウメイは不思議物が好きだった。目には見えない未知のもの……あの世やら宇宙やら宇宙人やらパラレルワールドに心惹かれていた。
いつから好きだったかは覚えていない。
小学校3年生頃には、図書室にあった『怪奇!ほんとうにあった学校の怪談』シリーズやら『世界にはナゾがいっぱい!』シリーズやら『たのしい!日本の神話』シリーズやらを読み漁っていた。
ホラー映画を観まくっていた。動画サイトで都市伝説やら宇宙やら人類の起源やら都市伝説系投稿者の動画を観まくっていた。ちなみに、これらは現在も継続中である…。
小・中と同じ趣味の同級生がおらず、ひとり没頭するのみだった彼だが、一駅先の高校に入学すると奇跡的に同趣味の友人を得た。そこで彼らは独自に『不思議物探求部』を設立した。
ショウメイは仲間を得たのだ。
その仲間に、今、腕を掴まれ渾身の力で引っ張られている。足を踏ん張り、駅の中に入ろうと、震えながら抵抗するショウメイ。
マンガならば書き文字で「うおォオオオオオオオオ!!!」という叫び声が入っていただろう。
なぜこうなっているのかというと、先の会話の通り、ショウメイが月一の超重要イベント『宇宙との交信』を「用事があるから行けない」とすっぽかそうとしているからだ。ちなみにどう交信するかというと、空に向かって「ゆんゆんゆんゆんゆん」だの「よんよんよんよんよん」だかを言い、「宇宙さん宇宙さん……聞こえますか……?僕らの声が聞こえますか……?」だの言いながら手を繋ぎ、ショウメイがキーボードで宇宙っぽい壮大なかんじのする音色を奏でるのだ。
(部を設立してから毎月やっているが、これまで宇宙人が「やあ」と現れたり、謎の円盤が空を浮遊していたことは、ない)
「僕だって本当は交信したいよ…!でも、今日はダメなんだ。どうしても外せない用事があるんだ!!」
「おうおう、聞かせてもらおうじゃねーか!」
「どんな用事なのよ。聞かせてちょーだいよ!」
「はよ言えや!」
詰め寄る、田3トリオ。ショウメイは目を瞑り、息をひと息吐いて……目を《カッ!!》と見開いた
「なぜなら今日の、午後7時から─────────…………
『 こ た え て ! 超 絶 ア ン ビ リ ー バ ボ ー 都 市 伝 説 ス ペ シ ャ ル 』があるから!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
都市伝説特集3時間の大特番!!!しかも今回はパラレルワールドや異世界、……あの『きさらぎ駅』まで特集されるんだ!!!この番組………絶対に見逃すわけにはいかないッッッ!!!!!」
「………………………………………………………………」
沈黙。
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