異界への線路 2
「ああ。今日だっけ?都市伝説スペシャル」その、沈黙を斬ったのは、田中だった。
「そういや CMでやってたよーなやってなかったよーな…」
「なになに?そのテレビが観たいから、交信に来れないってことか?」
「そういうこと!なんてったって、異世界特集。きさらぎ駅も放送させるんだからな!」
てゆうかみんなは観なくていいの?と、楽しみ!ワクワク!の熱に浮かされているショウメイは尋ねる。
テンション爆上がり寸前の彼とは違い、田中村田池田は、真反対に静かだった。
ショウメイを交信に連れさらん、としていた時の剣幕とは、えらい違いだ。
「きさらぎ駅かあ。俺そこらへんの都市伝説、詳しくないんだよなあ」
どんな話だっけと”?„を頭上に浮かべる池田に田中が口を開いた。
「え〜っとたしか…………………」
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─────はじまりは、インターネット掲示板のオカルト超常現象板。『はすみ』という投稿者のある書き込みが発端だった。
通勤帰りに、普段通り乗車した電車が なぜか停車せず20分以上走り続けている。周囲の乗客はなぜかみんな眠ったまま起きない。
そして、停車した駅が実際には存在しない駅『きさらぎ駅』。
電車から降りて散策するも、あるのは草原と山。人は誰も居ない。
遠くから聞こえてくる太鼓の音と鈴の音。目の前で消えた、片足だけの爺さん。
『トンネルをくぐった先に立っていた人に、車で駅まで送ってもらう』という書き込みを最後に、以後、消息は不明だという───────…………。
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「へえー。そんな話なんだ」
「一応、都市伝説の大御所だし。チェックはした」
「ワクワクしてこない!!?どう!!?」このワクワクが愛おしいと言わんばかりのショウメイが尋ねる。
田3トリオは、「ん〜〜〜~」と唸った。そんな3人をよそに、ショウメイは饒舌に語る。
「僕が思うに、きさらぎ駅は『異世界』だと思うんだ。投稿者は、異世界に迷い込んだんじゃないかな」
「『異世界』ねぇ」
村田が天を見上げてつぶやいた。
「きさらぎ駅かぁ……。言っちゃなんだが、な〜んか、ネタくさいんだよなぁ」
「都市伝説は好きだけど異世界モノはちょっとなあ……」
「だな」
「リアタイしてた人、ほんとに信じてたのかね?」
「いやいや。おもしろがってただけじゃね?」
「ほんと異世界モノ好きだよな。ショウメイ」
「なんで?」
「召還されるの?」
「アニメとかマンガ好きだしな。ラノベも」
……ショウメイは、なんだかイライラしてきた。そんなにおかしいか、『こたえて!超絶アンビリーバボー都市伝説スペシャル』を観ることが。
そんなにおかしいか、異世界モノが好きなことが。
たしかに、ちょっとテンションが上がっていたかもしれない。それで、3人共引いてしまったのかもしれない。…いやいや、それは自分たちも同じだろう。好きなことを語るときのテンションは似たようなモンじゃないか?
不思議物探求部。
ショセン、同じ穴のムジナさ。
ショウメイは胸の奥にモヤモヤイライラとうずまいている鬱憤を勢いまかせに腹に降下させ落とし込んだ。そしてすぐに踵を返し、玄関口から駅構内に入った。
「あ!!!おい───ッッ」
「なにもそこまで言うことないじゃないか!!悪かったよ。異世界モノが好きで!!」
ズカズカズンズンと淡いベージュ色の床を踏みしめ歩く。白いスニーカーを履いた足はもう誰にも止められない。
「ごめんて!悪かったって!」
「ンな怒んなよショウメイーーーっ!!」
しまった、という顔でショウメイの後を追う3人。だが時すでに遅し。彼の足はズンズンズンズンと乗車する電車が停車するホームに向かっている。
「僕は!!! こたえて!超絶アンビリーバボー都市伝説スペシャル を!!!観る!!!!!」
ショウメイはアポストロフィが増えるほどの決意を固めて、彼らに告げた。改札をそそくさと早足で通る。
数メートル先から「裏切り者ーーーっ!!」「宇宙との交信よりテレビかーーーっ!!」「キーボードもう弾かせてやんねーからなーーーっ!!」という雑声が聞こえたが、無視をした。
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