第32話 定番のラッキースケベ、そして
「引っ越してきたわよ!荷ほどき手伝いなさい!」
なんで俺がと言いたいところだが今の俺は修正が上手くいき少しだけテンションが上がっている、それでも疲労というマイナス要素はあるので差引でギリギリプラスと言うところだろう。
「しょうがないが手伝ってやるよ」
「偉そうな口の利き方するんじゃないわよ!」
数年ぶりの再会を果たして間もないのに偉そうなのはお前だ。
「まぁいいわ上がって」
「おじゃましま~す」
幼馴染の女の子の部屋に二人っきり、これが創作の中ならドキドキが充満する空間になるはずだが実際は少しボロく家具も何もない部屋なのでときめきとかは全く感じない。一人暮らしとは思えないほど大量の段ボールで埋め尽くされていて手伝いを承諾したのを既に後悔し始めている、それでも男として一度口に出したことを訂正するのは情けないので気分を荷ほどきモードに切り替え作業を開始する。
「どの段ボールから開けてけばいいのかだけ教えてくれ」
「パソコンとかの漫画描くのに必要なものから開けてちょうだい」
「おっけー」
段ボールの山をいくら見ても中に何が入っているかのメモ書きがない、もしかしてだが忘れていたのか…?ゆっくりと桃華の方を向きジッと見つめる。
「な、なによ…そんなに見つめてもなにもしてあげないからね」
違う、変な勘違いをするな。可愛い幼馴染に触れることができるのは俺も男なので当然嬉しいが今ほしいのは段ボールの中に何が入ってるのかを記すメモだ。
「あのぉ…」
「だからなによ…」
「まさかとは思うけどどの箱に何が入ってるか把握してない訳ではないですよね?」
申し訳なさそうに尋ねる、いやなんで俺が申し訳なさそうにしなきゃいけないんだ!
「はい~?そんなの外に書かれてるの見れば分かるでしょ!」
どうやら書き忘れたことに気付いていない。
「桃華さん、それが書かれてないんですよ」
再びジッ見つめると急に焦りだす。
「そんな訳ないでしょ!」
段ボールをいくつか見るが当然何も書かれていない内容物不明の段ボールに変わりはない。
「え、ちょっ!龍!なんで書かれてないのよ!」
「俺に聞くな!!」
ついつい大きな声が出てしまう。
「一つずつ開けてくしかないな、俺はこっちからやるから桃華は反対側からやってくれ」
「真ん中の段ボールにあったら無駄じゃない!」
「じゃあ真ん中からやれえええ!!」
無駄口を叩きながら開封作業を開始する。段ボールを開けるても皿や服などしか出てこない、しかもこの部屋にそこまでの収納スペースはないというのに無駄に出てくる、明らかに桃華は物件選びを間違えているのが伝わってくる。
「次はこれにするか、いい加減出て来てくれ…」
カッターなどはないので素手で強引に引きちぎると段ボールの中がカラフルなのが目に入る、白、黒、赤、青、黄色、ピンク、緑、虹が入ってるのかと思うほど様々な色が入っていた。
「ん…?これって…」
完全に蓋を開け何が入っているのかをようやく理解する。
「んぁ、あ、あんた…」
大量の下着が入っていた、女性ものの下着なんてネットでしか見る機会がないのでついつい食い入るように見入ってしまう。もちろん見ないほうがいいというのは分かっている、それでも目が離せないというのが九重龍という人間、いや桃華ほど可愛い子のなら見るなければ男が廃るというものだ。
「は、はやく目を話しなさいよ…」
恥ずかしさからなのか怒りなのかは分からないが声が震えている。
「悪いがめったにないいい機会がもう少し見させてくれ」
このセリフで桃華の怒りが頂点に達したようだ。
「それでハイどうぞなんていう女はこの世にいねーんだよ!!」
そして会心の一撃が俺の顔面を襲う。
「ぐぇえ」
100%俺に非があるのに暴力反対というほど頭はおかしくないので痛みを受け入れ反省する、それでも後悔はない…
「記憶消しときなさいよね!」
「はい…」
殴られ床にぐったりと横になる俺を気にすることもなく桃華は引き続き段ボールを開けては閉めるを繰り返す、普段痛みや苦痛を感じることがあっても師匠が瞬時に回復魔法をかけてくれていたので俺は打たれ弱くなっていた、10分経っても痛みが消えないことに驚き立ち上がれずにいた。
「あった!!ようやく見つけた!!」
俺を殴るとき以上に大きな声で喋る。
「さっそくセッティングするわよ!起きなさい!」
「はい…」
まだ顔が痛いのだが渋々立ち上がる。
「まずは机と椅子の組み立てからね」
俺は知っているのだ、パソコンの配線整理なんて机などの組み立てに比べれば造作もないことだと。しかも漫画家が使う机なんてありえないくらい大きいもの、二人でやっても一時間は余裕でかかるだろう。師匠、今こそ助けてください…
「そこのネジ取って」
「はいはい」
「そういえば龍はなんでラノベ作家になったの?」
久しぶりの再会だ、空白期間を埋めるように過去の話もする。口を動かしながらも同時に手も口以上に動かす。
「趣味でネットに投稿してたら出版社から声かけられたんだよ」
「へー、あの作品に声かけるなんて出版社も困ってるのかしらね」
地味に、いやド派手に失礼だな。
「今だから微妙な作品って言えるけど当時は最高傑作だったんだよなぁ」
「それでも読んでくれる人はいたんでしょ?」
「多くはないけどいたはず…」
「ふーん」
空白期間を埋めるように話をする。
「桃華はなんで漫画家になったんだよ」
「大体龍と同じ、ネットに投稿してたら作画やってみないかって声かけられてそれが新山先生原作だったの」
「ほへー」
久しぶりとは言え長い付き合いの友人なので気の抜けた返事をしてしまう。
「なんか色々な人を提案してたみたいだけどことごとく没らしかったんだけど、私の絵を見せたらすんなりOKが出たみたい」
なにか裏があるようで怖いな、恋人いないのかとか聞いてきたタイミングで桃華に再開したし、あの人未来を見る能力も持ってそうだし俺が弟子になる未来を見て俺と桃華をカップルにするために作画に抜擢したのかも。なんて考えすぎだな。
「そういえばもう一作作画しないかって聞かれてるのよね」
「そりゃアニメ化作品の作画担当だろ?引っ張りだこなのも当然だろ」
仕事が絶えないなんて流石は売れっ子だ羨ましい限り。
「確かラノベ作家の愛谷恋って人が原作って言ってたかしら」
「愛谷恋…?本当にそう言ってたのか!?」
「そうだけど?」
愛谷恋、アニメ化作品を連発している売れっ子作家。流行りの転生ものからラブコメまで幅広いジャンルのラノベを書ける歴の長いベテラン。年齢、性別全てが謎に包まれているがその実力は誰しもが認めている、次の新山千と推す声もあるほどだ。
「すげえじゃん!またアニメ化待ったなしだろそれ!」
「けど恋さんU22に応募するらしくてまだ先になるかもだけどね」
U22って俺が狙っているのだよな?いやそれ以外ないはず…
「は?U22に応募するって…本当にそう言ってたのか!?」
「なに同じようなこと言ってんのよ!そうだって!」
デビューしてからかなり時間が経ってるベテランだぞ?なのにU22に応募できるってことは俺と同い年くらいなのかもしれない、やはり世の中上には上がいるみたいだ。
「俺が今師匠と作ってる作品もU22に出すんだよ…まじで愛谷恋も応募するのか…」
「けど高校生には負けないわよね?」
「高校生?誰が?」
「愛谷恋よ、18歳の高校生らしいわよ」
包まれていた謎が一つ解けてしまった。
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