第29話 蹂躙
「やばそうなら助けてあげるよ、さぁ害虫駆除といこうじゃないか」
喧嘩を売ったのは師匠なのだが戦うのはどうやら俺らしい、普段なら文句を言うところなのだが俺もこの国の大量の奴隷をコキ使うのが当然のような風習や自分さえ良ければ周りのことを少しも思いやらない王、それを持ち上げる手下たちに腹が立っているので文句は言わずに戦闘を開始する。この国を滅ぼせると思うと血が滾ってくる、これまでの戦いは元からの性分もあり喜んで戦うことはなかったし作品のために渋々戦っていたが今回は違う、作品が関係なくてもこいつらとは戦っていただろう。
「女を殺せ!!」
10人を超える兵士たちが一斉に襲い掛かってくる、しかし師匠に槍や剣が届くことはない。バリアを張りその中で腕を組みあくびをしている、まさに暇を持て余しているという感じだ。
「なにをしても君たちにこの防御魔法を破ることは出来ないよ、そっちの男から狙った方が賢明だろうね」
師匠の一言で兵士たちの顔が歪んでいくのが鎧越しでも丸わかり、敵の言い分を聞くのは癪だがどうしようもないので俺を狙うことに決めたようだった。
「貴様ら何をしている!二人くらいさっさと始末せんか!」
「この女はあとだ!こっちのガキから殺すぞ!」
王の怒号により大勢の兵士の視線が俺に刺さる、ちなみに俺は手ぶらだ。
「あの…師匠…?なんか武器くれませんか…?」
恐る恐る問いかけてみたが俺の提案は一蹴される。
「そんなの必要ないよ、魔法と素手の近接戦闘で余裕だろう」
これは師匠基準での余裕ではなく俺レベルでも本当に余裕だというのがなんとなく理解できる。
「我が王に対する不遜その命をもって償ってもらう!」
剣を両手で大きく振りかぶり飛びかかってくる一人の兵士、ここまで溜めの大きい一撃が当たるとそこそこのダメージを受けてしまうだろう、しかし予備動作が大きくお腹がガラ空きだ。
「せーのっ!」
タイミングを合わせ鎧を纏った腹部に右ストレートをお見舞いすると、手には鎧の硬い感触のあとに生身の腹部の柔らかい感触が伝わる。
「ぐわっ!!」
殴りをモロにくらった兵士は王の後ろの壁まですごいスピードで吹き飛んだ。
「ひっ…」
死体が自分のすぐそばに飛んできたことに驚きを隠せない王は階段まで体を滑らせている、周りの兵士も拳サイズの穴が開いた鎧と腹部に穴が開いた死体を見て腰が引けていた。グロテスクな死に方だとは思うが同情はない、これまでの罰を受けているだけだ。
「1人ずつ殺すというのも手間がかかるね、範囲攻撃の魔法を使いたまえ、それっぽい名前を付ければ威力はさらに上がるよ」
アドバイスを受け左手を体の前に突き出し大声で魔法の名前を唱える。近接攻撃の右手に魔法を操る左手、それぞれの手で役割が違うというのは男のロマンだと俺は思う。
「ヘル・ファイア!!」
手のひらから高火力な炎が吹き出す、いつもの炎の竜巻ではなく今回はまさしく炎の壁、隙間なく逃げ道のない円柱の炎が室内に出現する。殺意の高い魔法だと思いながらあとは全員の死を待つだけかと炎の壁を眺めていると柱の上に新たな炎が現れる、まるで小さな太陽と言えるその炎はゆっくりと柱の上から床に向かい落ちていく。俺はそこまでイメージしていないのだが自動的に追加の炎が現れ軽く引いている、与えられた能力が凄すぎる。
「やめろ!来るな!!」
「諦めるな水魔法で迎え撃つんだ!!」
ジャーっとホースより少し強いくらいの水の音が聞こえるがまさに焼け石に水、消火など出来る訳もなくすぐに水の音は消え悲鳴だけが残される。
「「「「「うわああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」
残された悲鳴も消えると魔法は自動的に解除され大量の焼死体が並ぶ、たまたまこちらに向かった来ないで王の護衛をしていた残りの兵士たちもあまりにも残虐な死体を見たことで気を失いその場に倒れ込む。
「あ…あっ…」
達者な口もこの光景の前では動かずにとうとう階段から滑り落ち俺たちと同じ高さまで降りてきた王。
「な…なんだこの力は…」
この空間で意識があるのは師匠と俺と王だけ、あまりにも絶望的な状況に王は体の穴と言う穴から汁という汁を吹き出しプルプルと震えている。
「見るに耐えんな」
師匠が汚い王を魔法で清潔にするとなにを勘違いしたのか横柄な態度を取り戻す。
「そ、そうか!我が軍門に下りたいという訳か!いいだろう!」
何故そのような解釈になったのかは少しも分からないしこんな下衆なやつの気持ちなど分かりたくもない、師匠も同じ気持ちだったようだ。
「九重君、さっさとトドメを刺すといいよ」
さっきのように殴り飛ばすと顔が原型を留めないかもしれない、奴隷の人々が解放されたと分かってもらうにはこいつの首を見せるのが一番だろう、手刀で首を斬ることに決めた。
「ま、まて!!私が死にこの国が滅びたら友好国が黙ってな…」
――ザシュ――
言葉を言い切る前に首を一刀両断する、死んだことに気付いていないのか首から下がピクピクと動いているのが気持ち悪かった。
「よし出ようか」
「はい!」
世界の癌を取り除き意気揚々と城から出る。これからこの国の人達に王が死んだことを伝えなければいけない、戦闘よりそっちの方が手間がかかると思っていたが師匠からすれば大した問題ではなかった。城の上にまるで巨大なプロジェクターを使っているかのように王の生首が大きく映し出された、そして町内放送のように国中に師匠の言葉が響き渡る。
「カニラの国民たちよこの国の王は死んだ、これは奴隷からの解放を意味する」
辺りが徐々に騒がしくなっていく、身分関係なく全員が城の頭上を注視し国に響く謎の声に耳を傾ける。
「他国に行くも良し虫けらのように扱ってきたものを殺すも良し、あとは己次第だ」
奴隷達の目が輝いていくのがここからでも分かる。
「あ、城は破壊しておくよ、奴隷を使役するこの国の象徴だからね、そしたら好きにするといい」
ここで国への放送は終わり師匠は俺に話しかける。
「さぁ、壊していいよ」
その言葉を聞き待ってましたと言わんばかりに両手を銃に変形させる、弾を撃つのに躊躇はない。
――ドカン――
砲撃で城は跡形もなく木端微塵になった、それを見た国民は少しの間息を飲み沈黙が流れる。
「貴様ら!なんてことを!」
貴族と思われる一人が俺たちに近づいてくる、しかしそれを更に追いかける無数の影。
「これまでの恨みを晴らしてやる!」
この奴隷の強襲を皮切りに至る所で戦闘が開始する、もはや俺たちに構う暇などない。
「少し見て回ろうか」
やることはやったのでもう家に帰ればいいのにとも思ったが言われた通りに当たりの様子を見ながら歩く。そこら中で戦いが起こっていて戦争と言ってもいい程の荒れよう、自分の買主と戦うだけではなく他の奴隷の買主にも攻撃を仕掛け奴隷たちは手を組んでいて貴族も同じだ。ただ少々分が悪い、俺の目には護身用の武器を持っている貴族たちが優勢に見える。
「やはり歩いてよかったね」
そう言いながら指パッチンをすると地面から剣がニョキニョキと生えてくる、相変わらず理屈が分からない。
「剣があるぞ!!これでもっと戦える!!」
奴隷達の士気が上がるのを横目で見ながらカニラを出る、近くの平野から国を見るとあらゆる所から煙が上がっていた、迫害されていた者たちの怒りのように燃え盛っている。
「やはり人助けというのは気分がいいね、では帰って執筆といこうか」
「はい!」
気合の入った返事をしどんな修正を加えるかを考える。
「む…少し寄り道するよ」
珍しく顔をしかめる師匠、俺の返事を聞かずにテレポートした先は女神様の元だった。
「千…やってくれましたね…」
やばい、怒ってらっしゃる。
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