第27話 第2隣人誕生
「しょうがないわね!私もここのアパートに住むわ!もちろん龍の隣の部屋に!」
なにがしょうがないのか全く理解できないし何故隣の部屋に住む必要があるのかも全く分からない。
「いやいやいや!!桃華が住んだら家賃が発生するんだからダメに決まってんだろ!」
「ちょっと!お金と幼馴染どっちが大事なのよ!!」
そんなの金の方が大事に決まっているのだがそのまま伝えると暴力を振るわれるのが目に見えているのでなんとか誤魔化したい。
「幼馴染の方が大事に決まってるだろ…?」
「なら住んでもいいじゃない!それに私がどこに住もうが龍には関係ないでしょ!」
「それはそうだけど隣の部屋に住むなら流石に関係あるだろ!」
それに金銭に余裕があるならこんなアパートに住む理由は見つからない、壁は薄いし建物の老朽化は激しいしアクセスも微妙に悪い、家賃がそこそこ安い以外に魅力は特にない。500万部も売り上げている漫画家ならもっと広くて綺麗な家に住んでクリエイター志望の人間に夢を見せるのが売れっ子作家の使命だと思うんだ、まぁ俺は売れても引っ越す予定はないけれども。
「そもそもなんでこんなアパートにこだわるんだよ!」
「あんたには関係ないって言ってるでしょ!?」
やはりいくら考えてもここに住む理由がない、俺みたいなのが住んでるのもマイナスポイントだ…いや、もしかしてなのだが。
「俺のことが好きだから隣に住みたいのか…?」
「っ…!!」
おや…?何も話さず小さく息を飲む音だけを出して顔を真っ赤にする桃華、これはもしかして図星だったか?
「まぁそんなに俺が好きなら隣に住むのを許可してやらなくもないが?」
「うっさいバカ!!死ね!!!」
固く握りしめた拳が俺の顔面にクリーンヒットする、特に魔法を使った訳でもないただのパンチで俺は1mくらい後方に吹き飛んだ、きっと桃華は俺よりも異世界に適応できるだろう。職業は格闘家一択だ。
「好きじゃないならなんでだよ!!」
「だーかーらー!龍には関係ないでしょ!!」
「いーや関係あるね、家賃が発生すんだ!関係大アリだね!」
ワイワイガヤガヤと着地点の見当たらない言い合いを永遠と続ける俺らに呆れたのか師匠が口を開く。
「九重君はピンクピーチ先生が住んでも家賃が発生しなければ隣に住むのを許可するのかい?」
「え、いや、まぁそうですけど」
「なら二人とも家賃0円で住んでいいよ」
いくら金が有り余っているとは言え流石に親切すぎる師匠、少しらしくないとも思うが俺は家賃0円が継続されるならなんでも良くなっていた。
「そんな悪いですよ、印税多く貰ってるのに家賃まで無料なんて…私も龍もちゃんと払いますよ!」
余計なことを言うな!なに勝手に俺まで払う流れに持っていこうとするんだ。師匠に悪いとは微塵も思わないがどことなく怪しい、家賃0円にしてあげていることを条件にとんでもないことをさせられるのではないかと勘繰ってしまう。
「問題ないよ、隣の部屋の鍵を渡しておこう」
ここまでくれば俺の意見など関係なしに話がどんどん進んでいく。
「え…?鍵持ってたんですか?」
「あぁ、大家の嗜みだよ」
絶対に嘘だ、どんな理屈かは分からないけど今生成したんだろう。
「では私はここで失礼するよ」
いつものように瞬間移動で消えるのではなく玄関まで行きドアを開け帰っていった。あれ?師匠はなにをしに来たんだろう。
「あ、新山先生!」
桃華が師匠を追いかけドアを開けるが師匠の姿は既にない、もうどこかに消えたのだろう。
「あれ?もういない…」
「隣の部屋だからな!もう部屋に入ったんだろ!!」
「じゃあチャイム押していいかしら!!」
「やめとけやめとけ!!きっと何か用事があるんだろ!!」
本当のことを言うなら多分もうそこにはいないのだろう、俺の想像外の場所で想像外の作業をしていそうだ。
「ところで桃華さんよ」
「なによさん付けなんかして気持ち悪いわね」
口悪いな。
「本当にここに住むのか?おばさんたち何も言わないのか?」
既にチャンスはないのかもしれない、それでも俺は俺の平穏な日常を守るために足掻く。あとほんの少しだけ桃華の心配もしているのだ。
「問題ないわ!大学生になったときに1人暮らし始めたし自分でお金稼ぐようになってからは特になにも言われてないし、龍の隣の部屋って言ったら二人とも喜ぶわ!」
相変わらずかなりの放任主義のようだ、俺が悪い男だったらどうするんだ…
「じゃあ私も帰って荷物ここに送るわ、数日以内には住み始めるからよろしくねお隣さん」
「はいはい、よろしくよろしく」
桃華を見送った後にようやく作業を再開する、続きは確か魔王との戦闘が始まるところからだ。自分でこんなことを言うと師匠には鼻で笑われそうだが戦闘描写にはそこそこ自信がある、趣味で書き始めたときから今まで戦闘もののラノベを大量に執筆した、全体的に見れば駄作だったかもしれないが戦闘シーンには常に力を入れてきた。そのおかげが内容に詰まることなくスラスラと書き進めることができる、魔王を倒すとこまでで一区切りつけ何度も読み返す、俺の目で見ただけだがクオリティも悪くないこれなら師匠からも特に直しはこないだろう。続けて王様と国を亡ぼすシーンを執筆する、本当の黒幕は勇者なのだが主人公視点でのすべての元凶である国と戦う場面というのは魔王との戦闘以上に書きやすかった、やはり嫌な奴を成敗するというのは理由が復讐という暗いものでも爽快感の得られる読みやすい話だ。師匠に褒められた執筆スピードを遺憾なく発揮し早々に作業は終了する、今日という一日は執筆よりも桃華の方が俺に対して疲労を与えていた、ベランダでタバコを吸い眠りにつき一日を終了させる。
「あー…よく寝た~」
「君の寝顔はとんでもなくアホらしいね」
「うるさいですね…ん!?!?」
何故か俺の部屋にいる師匠、寝ている間に悪戯とかされてないといいのだが…
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