第25話 待望のヒロイン!
「げっ、なんでここに…」
ドアを開けると想定していなかった人物の登場に思わず顔が引きつってしまう。
「出るの遅いわよ!さっさと出なさいよ!」
「桃華久しぶり…」
こいつは浅宮桃華、実家が隣同士で小さいころから付き合いのある所謂幼馴染。面倒見のいい性格で毎日毎日忘れ物はないか服装がどうだの世話をしてもらっていた、スポーツ万能頭脳明晰で校内での人気も高くおまけに可愛い幼馴染の存在は当然悪いものではなかった。中学までは同じ学校だったが高校進学の際に別々の道に進み以前ほどの交流がなくなって徐々に疎遠になっていった、別に喧嘩別れをしたわけでもないよくある気付いたら連絡を取り合わないようになっただけのよくある関係。赤とピンクが混ざったような髪色に流行りの地雷系のような服装で昔の面影はない、ただその傲慢な話し方と雰囲気のおかげで誰だか分からないなんて事態は避けることができた。
「なんでここに住んでるの知ってるんだ…もしかして陽太か?」
別に隠しているわけでもないが何故バレたのかは気になる、疎遠になっていた幼馴染との再会は感動的な要素は少しもなく只々微妙に気まずいだけなのだから。
「夢見君?違うわよおばさんに教えてもらったの、龍まだ夢見君と仲いいの?」
「あぁ…母さんか…」
「そうよ、で、まだ仲いいのか聞いてるの!」
何を考えているのか回答を催促してくる、これも隠す意味もないので正直に答える。
「仲いいよ、たまに家来るしな」
「ふーん、じゃあこれからは私も来るから!」
謎の宣言に頭を抱える、ここ数日来客が多すぎるここは俺の城なのに。
「なんでそうなるんだよ…」
「別に夢見君以外に来る人もいないでしょ?」
「まぁそうだけど」
師匠とMyuiのことは黙っておく。桃華は俺と過ごしていた影響でアニメや漫画にラノベまで普通に詳しい隠れオタクなのだ、当然あの二人のことも知っているだろうし交流があったなんて言えばなにを言われるか想像もつかない。
「とりあえず上がるわね」
「ちょ、まて!」
ズカズカと俺の許可を取らずに勝手に部屋に侵入していく、久しぶりの再会だというのに相変わらず遠慮というものをしらないようだ。
「ん、なんか女の匂いがするわね…」
絶対に師匠だ…言われてみれば確かに部屋にはいい匂いが漂っている、師匠と部屋にいることも多いので鼻がなれていて自分では違和感に気付かない、あの人常にいい匂いなのだがそれに言及したら殺されてしまいそうなので触れたことはなかった。
「陽太じゃないか…?」
「絶対に違うわ。これはいい女の匂いよ」
その勘の良さは一体何なんだ。
「女も部屋に入れてるでしょ!」
なにをそんなにムキになっているのかは分からない、入れてないと否定しても聞く耳を持たずに騒ぐのが目に見えているので正直に話すことにした。
「あーもうそうだよ、色々訳あって頻繁に出入りする人がいる」
これで少しは大人しくしてくれるかと思ったが余計にヒートアップさせてしまう。
「さっきは夢見君以外来ないって言ってたわよね!!私に嘘ついたの!?」
めんどくせぇ…必殺の話題逸らしを発動する時が来たようだ。
「ところで今は大学生か?ずっと気になってたんだよ…」
「気になってたってなによ…」
理由はよく分からないが急に大人しくなりモジモジとしながら喋る、狙い通り静かになったのだがこれがこれでなんだかやりにくい。
「気になってたとしか言いようがないな」
「先に龍が話して、高校生のときから今までのこと」
偉そうに語れる過去もないが渋々これまでのことを話す。
「高校の頃にラノベ書き出して今はラノベ作家、まぁ売れてないけどな、けどこれからアニメ化作家になるんだ!」
久しぶりに再会した友人が売れていないとはいえラノベ作家になったというなら目を輝かせて褒めてくれるのかと思っていたのだが桃華のリアクションは想像以上に冷めたもので興味なしとでもいうような反応を取られる。
「へぇー、想像通りっちゃ想像通りね」
「え?なんで?」
「龍が私にアニメとかラノベのオタクカルチャーを教えたんじゃない、その影響で私がクリエイターになったのに龍がなってない訳ないと思ったの、まぁ売れてないってのは意外だけど」
今クリエイターって言ったか?確かに俺が色々教えたことで桃華は晴れて立派な隠れオタクになったわけだが…聞き間違いを疑うので一応聞き返しておく。
「クリエイターって言ったよな?」
「うん」
「なに作ってんだ…?」
「漫画よ、一応アニメ化もしてるわよ」
なんということだろう、かなりカッコよく言えば俺の教え子のような桃華は俺なんかを優に飛び越え俺の何歩も先を進んでいた。流石に動揺を隠せず震えた声で質問を続ける。
「に、人気なんだな…い、いつから漫画描いてるんだ…?」
「高校二年からね」
「それでアニメ化か…相当頑張ったんだな…」
きっと天才の部類に入っているのだろうが才能しか見ずにそこしか褒めないのは愚かなことな気がした。それに才能だけでアニメ化作家になるなら俺は一生かかってもなれない、今後の俺自身のためにも桃華の頑張りを賞賛する。
「まぁ原作の人の力が強かったのよね、あの有名な…」
――ピンポン――
桃華のセリフを遮るように家のチャイムが鳴り響く、今度は誰だとドアを開くと想定外の人物が仁王立ちしていた。
「やぁ」
「げっ…なんで今…」
何故か正規の入り口に立っている師匠、なにが起こっているのか理解が追い付かない俺を置いてきぼりにし無断で部屋に入ってくる。
「え、新山先生!どうして龍の家に!?」
「おやおや、ピンクピーチ先生ではないか」
「ちょ!今それは!」
二人はどうやら顔見知りのようだった、それ以上に気になったのはピンクピーチという適当につけたようなペンネーム、会話の流れ的にそのペンネームの主は桃華なのは明確。この名前も一生懸命に考えてつけたのだろう笑ってはいけない、笑ったら傷つけてしまう、それでも口角が自然と上へ上へと向かっていく。
「ピンクピーチって…」
「笑うんじゃないわよ!!」
クスクスと笑う俺を桃華が殴り飛ばす。
「痛い!!人は殴ったらいけないんだぞ!」
「うっさいばか!ペンネームなんて考えたこともなかったから急いで作ったらこうなっちゃったんだからしょうがないじゃない!」
よかった、適当に作った名前なら笑ってもセーフだろう。会話を正常路線に進路変更する。
「ところで二人はどこで知り合ったんですか?」
「おや?聞いてないのかい?彼女の漫画の原作を私がしているんだよ」
衝撃の事実だ、桃華は師匠とパートナーのような関係を築いている。俺なんか虫けらのように見えるかもしれない。
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