第13話 神絵師Myui

「なんじゃこれわれぃ!!げ、新山ぁああ!!」

 「じゃーん!イラストレーターのMyuiさんでーす!」


 ありえないくらい嫌われていそうなのは置いておくとしてなんでこんなところにあのMyuiを呼んだのだろう。


 「え、本当にこの人がMyuiなんですか…なんというかその…」

 「なんじゃガキ疑ってんのか!!」


 疑いもするだろう、男だと思ってた人物が低身長の金髪ツインテールの少女、しかしそれに似つかわしくない胸部。師匠はまさしくお姉さんという見た目だけどこの人は一部を除いて可愛らしい少女そのもの。なのに口が悪い、まだ二言しか発言を聞いていないけど分かってしまう。


 「女の人だったんですね…」

 「Myuiが女だったら悪いんか!!」


 口はメチャクチャ悪いのだけど見た目も相まってあまり怖くない、この前までの俺だったら圧に負けていただろうが真に怖いのはニコニコと怒る人というのを知っている。無邪気にはしゃぐ子供を見ている気分だ、微笑ましくもある。


 「おい!子供を見るようなその眼差しをやめんか!」


 可愛らしいのだが声量がデカすぎて耳が痛い、そろそろ機嫌を取って怒りを鎮めてもらおう。幸い怪物のテンションの操縦は慣れてきたところだ、しかし空気の読めない陽太が余計な一言を放つ。


 「新山さん!このチンチクリンが本当にMyuiなんですか!?!?」

 「誰がチンチクリンじゃガキ!」

 「アハハ!夢見君本当に君は面白いね、このチンチクリンがあの有名イラストレーターMyuiだよ」


 相変わらず人をイラつかせるのがお上手なことで…


 「新山てめぇ!また好き放題言いやがって、はやくラノベ書けや!」

 「おや本当にいいのかな?またネットでイラストが負けてるって言われたいのかい」


 あ、これまずい。今日一番の怒号が飛んでくるのを予見し耳を塞ぐ。


 「お前少しネットで褒められただけでいい気になりやがって~!!負けるのが怖くて逃げてるだけの分際でぇええええ!!!」


 うるせぇ…


 「分かってはいたもののMyuiがこんなに残念な人だったとはなぁ…絵の上手さだけはすごいと思うんだけどな」

 「ガキ、お前イラスト描いてんのかぁ?見せてみろや~」

 「いいよ!最近描けた俺史上最高の一枚を見てくれよ!」


 陽太…お前の自信は一体どこから湧いてくるんだよ、その性格が俺も欲しかったよ。しかもしれっとタメ口だし。

 俺に見せてきた最高の出来のイラストが描かれて紙を渡す。Myuiは三秒くらいだけジッと見た後に紙を投げ捨てた。


 「このゴミがお前史上最高の一枚か!!中途半端に私のイラストパクリやがって!!私が100だとしたらてめぇは10いや、いいとこ3だな!!ギャハハハハハ」


 言い過ぎだろ、俺も師匠にボロクソに言われたときは相当へこんだ。あれは本気で取り組んだものをゴミと言われたことのある人間にしか分からない辛さがある。見ろ、陽太は涙目になってるじゃないか。


 「その通り!これはまだゴミカス!だからこそMyui、君に夢見君を鍛えてもらいたいんだよ」

 「はぁ!?なんでこんな下手くそに教えなきゃならんのや!!」


 オーバーキルにもほどがある、師匠の申し出を断るために声を張り上げるMyui、人生で喰らったことのないほどの批判を受け号泣の陽太、地獄の光景に言葉を失う俺、それを見て大声で笑う師匠。阿鼻叫喚とはまさにこのことだ。


 「もし引き受けてくれるならまたラノベを描くことを約束しよう、もちろん表紙と挿絵には君を指名しよう」

 「な…今言った言葉絶対忘れんなよ!」

 「私は嘘をつかないよ」


 しれっと凄いコンビの再結成の瞬間に立ち会ってしまった。それに陽太にもすごい先生が付いたというのに当の本人はなにも聞こえておらず未だにワンワン泣きわめいている。


 「いい加減うっさいわガキ!はよ泣き止め!!」

 「痛い!!え、なんの話ですか?」


 パーで叩いて正気に戻らせるのではなくグーで殴って泣き止ませている。痛そうだが俺の師匠なら殺してくる、まだまだ甘い環境だなとなにも嬉しくない師匠自慢をしてしまった。


 「ガキ名前は」

 「夢見陽太だけど…ガキがガキっていうなよ!」

 「ペンネーム言わんかいボケ!あと私は25歳じゃ!お前二十歳とかやろ敬語使わんかい!」

 「え、25…?まじか…こんな小さいのに…」


 どうしてここにいる俺以外の人間は会話の度に人をイラつかせるのだろう。基本的に一人で腐っていた俺にはこの騒がしさは少ししんどいがそれ以上に人と楽しく?会話をする楽しみを感じている。


 「ペンネームは夢見太陽…です…」

 「しょーもない名前や」

 「で、どこまでこいつを育てればええんや新山」

 「私の弟子である九重龍君が次のU22ラノベ大賞で受賞する作品を作る、それの表紙を描くレベルに育ててくれ」


 そのためにわざわざMyuiを呼んだのか、しかもラノベを書くという約束をしてまで。


 「私は弟子思いだからね、スパルタだが特別の待遇だと思わないかい?」

 「そうですね…」


 いくらスパルタだからといって粗相をしたら殺す必要は全くもって感じないけどな。


 「そっちのガキはそんな優秀なんか、陽太とはえらい違いやな」

 「いや全く、だからこそ君と私にしか出来ないんだよ」


 二人そろってひどい言われよう、俺と陽太のメンタルはそろそろ砕け割れてしまいそうだ。


 「難しい話やな…本当に龍は大賞獲れるんか?」

 「概ね問題ない、もしも出来ないとしたらそれは私ではなく九重君の問題だね」


 うわずるい、と少しだけ思ったが実際その通りで異世界にも連れて行ってもらってほかの作家よりも確実に恵まれた環境にいるのに落選したら俺のせいでしかないだろう。


 「ほなら俺らはこんなとこいる場合ちゃうぞ、俺の家で合宿や!」

 「新山はよ俺の家に飛ばしてくれ」

 「いいだろう」


 陽太とMyuiの二人は陽太史上最高の作品を残して消えていった。きっと次に会うときはこのイラストとは比べ物にならないほど最高の絵を見せてくれるだろう。俺が遅れをとるわけにはいかない、よりやる気に火が付く。


 「俺は俺は!何をすればいいですか師匠!」

 「そう焦るなMyuiに異能はない、私たちのほうがより効率的に成長することが出来る」

 「九重君の次の作品の設定はどんなのだったろうか」

 「クラスごと異世界に飛ばされて主人公以外の生徒が魔王軍に入って、勇者のお姉さんに拾ってもらい強くなって復讐する話ですけど」


 「それと全く同じ状況を再現する、質問はないな?早速始めるよ」


 「いやちょっとまって!!」

 「どうした龍急に大きな声出して」


 何故か俺は制服を着て教室に座っていた、まわりのクラスメートたちのことは何故か全員の名前が言える。存在しない記憶を師匠の力で埋め込まれたみたいだ。

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