幸福転入生

あいず

第1話 転入生

 ゴールデンウィーク明けのとある日


「...中川優斗です。よろしくお願いします。」

特に面白味のない自己紹介を終え、教室を静かに見渡す。

騒いでる生徒が大半だが終始顔を俯かせている女生徒がいた。

「中川君の席は白雪さんの隣ね」

担任の早坂美桜に指された席に顔を向けると終始顔を俯かせていた女生徒の隣だった。

 

 席について隣に目を向けると顔は俯かせているが凛とした横顔に毛先まで手入れされているであろうサラサラな黒髪に目を奪われそうになる。

「よ、よろしく」

見惚れそうなのを抑えてどうにか挨拶する。

「よろしくお願いします...」

顔を俯かせたまま挨拶が返ってくる。

あまり人と関わりたくないのかと思いそれ以上話しかけるのはやめた。


 昼休みになり机の周りを囲むように続々とクラスメイト達が集まってくる。

転入生にはありがちなイベントだ。

白雪さんはその状況があまり好まないのか席を離れてしまった。

「彼女はいるのか?!」

そう聞いてきたのは元気が有り余っていそうな生徒だ。

名前は加藤だったか?

「いないよ」

そう答えると加藤に続いて次々と質問がくる。

「どうしてこの学校に転入してきたの?」

「元カノ何人?」

「趣味とかあるのか?」

昼休みが終わるまでこの質問攻めが終わらないなと悟った俺は適当に答えていった。


 放課後になると早坂先生に呼び出された。

「クラスの印象とかどう?」

「そうですね,.,皆元気で仲良さそうでしたね」

嘘はついていない、ただ元気がよぎて俺がついていけるか不安ではある。

「この学校ではやっていけそう?」

「そうですね...今のところはやっていけそうです」

転入するにあたって先生方には俺の過去を伝えている。

正直無駄な詮索をされると思っていたけどこれ以上何も聞いてこないし俺としてもありがたい。

俺自身過去を思い出したくもないからな。

「それならよかった!それじゃ明日からよろしくね!」

ウインクをしてそう言うと早坂先生は教室を出て行った。


 窓の外を見ると空一面がオレンジ色に染まっていた。

玄関で靴を履き替え学校を出る。

「そういえば白雪さんと話したのは挨拶だけだったな」

一人でそう呟きながら住んでいるマンションに向かった。

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