10日目の翌日 夜
「天使に会えなくて、残念だったな」
帰り道、おれは追っかけ君に言った。
今日はかなり惜しかった分、落胆も大きいだろう。
そう思っていたが、追っかけ君は明るく言った。
「いえ。良い写真も撮れました。仲間に自慢できますよ」
「そうか?」
「ええ。こんなに近い距離の写真は初めてですからね。それに羽ばたく瞬間ってのも素晴らしいです」
追っかけ君は満足そうだった。
──────
しかし天使を追って、がむしゃらに走ってきたので、帰り道がわからない。
今はとりあえず道を辿ってはいるが、中々建物も看板もない。
道はこっちで合っているのだろうか。
そんなことを考えていたら、追っかけ君が言った。
「加藤さんも、ありがとうございました」
「加藤さんのおかげで、天使を間近で見ることも出来たし、写真も撮れた。もう最高ですよ」
「いや。おれは着いてきただけだ。追っかけ君の頑張りだよ」
辺りを見回しながら答える。
道はどっちだ?
「いえ。本当に助かりました。加藤さんが来てくれなかったら、会えてなかったかもしれないんですから」
「そうか。それなら、良かった」
天使に会うことは出来なかったが、追っかけ君が満足しているなら何よりだ。
「はい。ありがとうございます」
…ところで、道は合っているのだろうか。
そんなことを思いつつ歩く。
すると、左手に池があった。
こんな池来る途中あったか?
「加藤さん。鳥がいますよ」
「ほんとだ」
池の上を、鴨がスイスイと泳いでいる。
「ところで道こっちで合ってる?」
「実はぼくも今、それを考えていたところなんです」
なるほど……
「まあ、とりあえず歩いてみるか」
「そうですね」
いつか看板とか表れるだろう。
──────
しばらく歩いていると、予想通り、看板が現れた。
「えっと、この看板があるってことは…」
パンフレットの地図を見ながら照らし合わせる。
「ここですね」
「そうだな。ここだ」
良かった。道は間違っていないようだ。
しかし出口まで中々距離がある。
「結構走ったな…」
「ですね」
──────
その後しばらく歩いて、チェックポイントの山小屋まで戻ってきた。
空は暗くなってきていた。
「なんとか真っ暗になる前までには、帰れそうですね」
「ギリギリだけどな」
既に足はパンパンだ。
──────
それからまた出口に向けて歩き、
辺りがさらに暗くなってきて、ホーホーと何かが鳴き出す。
恐らくフクロウだ。
いや、鳩かな。
「なんか不気味ですね」
「そうだな…」
その時、追っかけ君が急に叫んだ。
「わっ!」
そして頭を低くする。
「今何かが頭の上を横切りました。」
「マジ?」
「マジです」
「…走るか」
そう言っておれは走り出す。
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
おれと追っかけ君は脇目も振らず走り、出口にたどり着いた。
「もう、急に走り出すから」
「はは。だが、早く着いたろ?」
「…まあ、そうですね」
そう言って追っかけ君も笑った。
──────
それからバスに乗って、ホテルに帰ってきた。
外の植物がライトアップされ、綺麗だ。
「お帰りなさいませ」
中に入るとホテリエさんに出迎えられる。
明るいロビーに入ると、帰ってきたなという感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます