第2話 正体聞いただけなのに
怪しい霊能者のオッサンは
「本当にその祠とやらを壊したのか……?」
俺たちは神主さんと霊能者のオッサンと一緒に、例の壊した箱まで行くことにした。道中、俺たちは変なじいさんについて二人に詳しく話して聞かせた。
「本当に心当たりがないんですか?」
「残念ですけど、この村にそういう伝承みたいなのはないんですよ」
神主さんはしきりに首を傾げる。
「しかし、話のないところに怪異は訪れないはずなんです」
「そうですよね……しかし、嫌な気配はさっきから離れないんですよ」
立野さんは何かを警戒しているようだった。
「あ、あそこだよ!」
よっちゃんが神主さんに例の箱を指さして教える。
「なんだこれは……祠と言えば祠だけど、確かに箱だな……」
「そもそも、なんでコレを開けようとしたんだ?」
立野さんに尋ねられて、たろちんとよっちゃんは顔を見合わせる。
「何でだろう……バールがあったら、何かをこじ開けたくなったというか……」
「ちょうどいい箱があったら、バールを使いたくなるじゃないか……」
何だか怒られたような気がして、俺たちはしゅんとする。
「まあ、過ぎたことは仕方ない。これからのことを考えよう」
立野さんは箱から出てきた石を持ち上げる。
「とりあえず、村に帰ろう」
神主さんが祠を元に戻して、お参りをする。俺たちは一緒に頭を下げて、それから村に戻る道を歩く。立野さんは割れた石を手のひらで転がしながら、俺たちを見る。
「さて、ひとつわかったことがある。変なじいさんは置いておいて、よくないものが祠から出てきたのは間違いない」
俺たちはまた叱られると思って、びくびくした。
「そこで、これからそのよくないものを呼び出す儀式を行う。俺たちは神社に戻って準備をするから、お前らは村の入り口で待ってろ。いいか、俺が迎えに来るまで何があっても村に入るんじゃないぞ」
立野さんはそう言うと、神主さんと先に行ってしまった。
「村に入るなって言ってもなあ……」
「何もないところに突っ立っているのも……」
俺たちが顔を見合わせていると、またあのじいさんが現れた。
「性懲りも無く現れたか、このクソガキが!」
じいさんは村の入り口の前に立ち塞がった。
「一体何なんだよ? お前みたいな奴、俺たちは知らないぞ?」
たろちんがじいさんとコミュニケーションを試みる。
「知らなくて当然だ。だがな、わしはお前らをよーく知っている。それこそお前らが赤ん坊の頃からな」
またじいさんが訳のわからないことを言い出した。
「だから、あの箱は一体何なんだ?」
「お前らが知る必要はない」
ダメだ、コミュニケーション失敗だ。
「そして、いつまでお前はここにいるつもりだ!?」
じいさんはいきなり俺に杖で殴りかかってきた。
「や、やめろよ!」
「危ないだろう!」
たろちんとよっちゃんもじいさんの攻撃を避けようとする。
「だって俺たち、ここにいろって言われたから待ってるんだ!」
俺が叫ぶと、じいさんは杖を降ろした。ちょうどそのとき、立野さんがこっちに走ってくるのが見えた。
「……それなら待っているがいい」
そう言うとじいさんはまた消えてしまった。後からやってきた立野さんは、息を整えてから俺たちに話しかける。
「よかった、間に合ったか……よし、行くぞ」
俺たちは立野さんに連れられて、神社へ向かう。神社へ歩いて行くと、とても嫌な気配が増えていくような気がする。
「どうした、寒いか?」
立野さんが尋ねる。たろちんもよっちゃんも、顔色がとても悪い。二人も俺と同じく頷いた。
「安心しろ、神社までの辛抱だ。結界を張ったから、そこまで奴は入ってこれない」
よくないものがそばにいると思うだけで、俺は泣きたくなった。
「あの、さっき言ってたよくないものって何ですか?」
たろちんが立野さんに尋ねる。
「さあ、よくわからない。ただ、あの箱の中から出てきたんだろうなというのは推測できる」
「じゃあ、俺たちが箱を壊したから出てきたんですか?」
「それなんだが……おそらく、君たちのせいではないだろう」
よっちゃんが急に立ち止まる。それから膝をついて急に吐いた。
「いけない……思ったより瘴気が強い。早く結界まで移動しないと、君たちが危険だ」
たろちんもよっちゃんと同じように、今にも倒れそうなほどふらふらしている。
「君は真実を知りたいと思うか?」
立野さんが俺に話しかける。俺も気分が悪くて仕方なかったが、一体何が起こっているのかは絶対に知りたかった。
「それならあとひと息だ、自分たちの足で歩け」
よっちゃんは泣いていた。たろちんもかなり苦しそうだ。俺は二人を支えるように何とか神社までの道を歩いた。
「ダメだ……もう歩けない」
「頑張れ、取り憑かれるぞ」
よっちゃんが神社の階段でとうとう倒れた。俺は手を貸そうとしたが、立野さんに止められた。
「自分の足で歩かないと、意味がない」
よっちゃんは歯を食いしばって立ち上がる。それからたろちんと這うように階段を登った。
「社殿に結界を張った。あの中は安全のはずだ」
結界の向こうで神主さんが待っている。俺たちは結界の中に飛び込もうとした。
たろちんとよっちゃんは神主さんに引っ張られるように結界の中へ入っていった。
あれ、おかしいな。
どうして俺は、どうやっても社殿に入れないんだ!?
「どんなに頑張っても、入れないぜ」
俺は何度も社殿に入ろうとした。でも透明な壁が俺の行く手を阻んで入れない。
「さて、ようやく姿を現したな。お前の正体は何だ?」
俺の正体だって?
俺、俺は……
俺は、何者だ?
「あの子供たちを呼んだのは、お前だろう?」
あれ、俺は――おれは、あいつらと、ともだちで、それで、いっしょに、はこをこわして、それで、それで……
「いい加減観念しろ、お前が呼んでいたのは、本当は俺なんだろう?」
ついにおれが溶け出した。いやだ、おれは、あいつらといっしょにずっとあそびたかっただけなのに……。
そうして、おれは一度完全に消え失せた。
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