祠を壊しただけなのに

秋犬

第1話 祠を壊しただけなのに

「あ、やっちまった……」


 村内一斉清掃大会で、村の裏山の掃除を任された俺たちはしばらく誰も使っていない獣道みたいな県道を清掃していた。中学生だからって、山道を掃除させるなんて本当に人使いが荒い村だ。


「た、たろちんがいけないんだぜ……?」

「よっちゃんが開けてみようぜって言うから……」


 林道の途中に、古い箱みたいなものがあったので開けてみようと俺たちは持っていたバールでこじ開けると、中から石みたいなのが転がり落ちてきた。そして古い箱も無理矢理こじ開けたから、蓋がしまらなくなってしまった。


「ど、どうしよう……」

「知らんふりしとけば、いいんじゃないか?」


 掃除中に物を壊した俺たちは何だか怖くなって、県道の掃除を止めて村に帰ることにした。俺たちが掃いてきた道は少しすっきりして、歩きやすかった。


 村まであとひと息というところで、変なじいさんがガードレールに寄りかかっているのが見えた。


「お前たち、あのほこらを壊したんか!?」


 俺たちの姿を見るなり、じいさんは激昂して杖を振り上げてきた。


「ほこら? ほこらって、さっきのか?」

「壊したのか壊してないのか、はっきりしろ!」


 じいさんはぶるぶると震えている。正直怖い。


「なあ、このじいさんどうする?」

「不審者だよきっと。駐在さん呼んでこようぜ」


 俺たちはひそひそ話し合って、村までダッシュすることにした。杖をついているじいさんなら、楽勝で逃げ切れる自信はあった。


「いくぞ、せーの」


 俺たちは一斉に走り出した。村まで行けば、後は周りの大人が何とかしてくれるはずだ。


「待て、待たんかこのガキども!」


 するとじいさんは杖を振り上げたまま、空中浮遊して追いかけてきた。しかもすごいスピードだ。


「げぇっ!?」


 俺たちはびっくりしたのなんの、じいさんから逃げるためにガチで走り始めた。


「祠を、壊したんは、お前らか!?」

「ち、ちがいます!」


 寂しい県道を走りに走って、何とか村の入り口が見えてきた。あそこまで走れば、きっと助かるはず……!


「お前らかあああ!?」


 突然、じいさんの顔面が目の前に現れた。


「うわああああ!!」


 驚いた俺とよっちゃんは転び、じいさんの前に投げ出された。たろちんは何とか体勢を立て直して、俺たちをちらりと見ると村まで走って行った。


「たろちん、きっと誰か呼んできてくれる、はずだ……」


 よっちゃんはすっころんで肘の辺りを擦り剥いたようだった。痛そうだ。


「おーまーえーらーかー、ほーこーらーをーこーわーしーたーんーはー」


 じいさんはさっきからそれしか言わない。それしか言えないのだろうか。


「はい、壊しました。ごめんなさい」


 諦めたよっちゃんが、じいさんに頭を下げる。


「ごめんなさい」


 俺もよっちゃんに倣って頭を下げる。


「この痴れ者お!!」


 じいさんは杖で俺をバシバシ殴ってくる。


「イタ! 痛、痛えな!!」

「お前らは、何をしたのか、わかってるのか!!」


 殴られてるうちに、俺は何だかムカついてきた。よっちゃんがじいさんに啖呵を切る。


「おうおう! 何だか知らねえがいきなり怒鳴りつけて殴りかかってくる奴の方が卑怯者じゃねえか!」

「やっちまおうぜ!」


 俺とよっちゃんは反撃することにした。しかし、相手は空飛ぶじいさんだ。こっちの攻撃が通じるかどうかわからない。


「そうだ、バール!」


 よっちゃんは腰に差していたバールを取り出して爺さんと対峙する。


「貴様ら、なんちゅう物騒なモン持ってるんじゃ!」

「熊が出たときの武器だい!」

「もっと違う熊よけを持ってこないかい!」


 流石にじいさんもバールが怖いのか、俺たちと距離を取る。


「ふっ、小童が。どうなっても知らんぞ」


 そう言うと、じいさんは霧のように消えてしまった。もう俺たちは驚かなかった。


「一体何なんだ、あのじいさんは……?」


 俺たちは首を傾げながら、村まで帰ることにした。転んで怪我をしたところと、じいさんに殴られた部分が痛い。帰ったらなんと親に説明しようかと考えていると、村の入り口に真っ青になったよっちゃんのお父さんがいた。


「おお、無事か!?」


 たろちんが知らせてくれたんだろう。村の大人たちが棒とか持って出迎えてくれた。


「ああ、じいさんはやっつけたぜ」

「じいさん? それよりも、お前らはこっちに来い」


 俺とよっちゃんは村の神社に連れて行かれた。そこには真っ青になったたろちんが正座していた。


「どしたん? たろちん」


 すると見慣れた神主さんの横に、見慣れない男の人がいることに気がついた。


「俺は通りすがりの霊能者だ。尋常じゃない瘴気を感じてこの村を訪れたら、そうとうヤバいことになってるな」


 男の人――霊能者は頭を掻きながら続けた。


「君たち厄介なことをしてくれたね。残念だけど、最悪死ぬかも」


 見るからに嫌な気配を出して、霊能者は俺たちを眺めた。

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