美しきもの
神父猫
美しきもの
本当に美しいものは、形無いものだった。
そんな簡単な事に私は気が付かなかった。
首が折れるような絶景を見た時に美しいと思った。
虹色の花束を見た時に美しいと思った。
絶世の美女を見た時に美しいと思った。
全て間違っていた。
絶景が美しいのではない。
辿り着くまでの過程に美しさがある。
誰と目指したのか。
何年を費やしたのか。
虹色の花束が美しいのではない。
誰が何処で摘んだ花なのか。
一つ一つの花に存在している言葉は何か。
絶世の美女が美しいのではない。
彼女の感情や行動の意味。
彼女が馳せる想い。
彼女が経験してきた様々な体験。
本当に美しいものは目には見えない。
人間は最も愚かだ。
目に見える美しさだけで観測する。
本質を観測することが出来ない。
世の中にとって、人の容姿は名刺だ。
綺麗事は辞めにしよう。
名刺には価値がある。
当然だが、低い者も高い者もいる。
低い者は、皮の奥に秘めている美しき魂を観測される事はないだろう。
残酷だが現実だ。
高い者は、皮の奥が穢れていても観測される。
人は美しいと言うだろう。
間違っている。
違うだろう。
本当の美しさは、形の無いものだ。
見えないものだ。
形の無い感情に浸り、溺れた時、世界は変わるだろう。
より清く美しく変わるだろう。
私は望んでいない。
世界の変化を望んでいない。
気が付いただけだ。
世界に私だけが気が付いた。
それで良い。
人間を容姿で判断する事は悪だとは思わない。
それも人の美しさだ。
形の無い美しさだ。
穢れた世界こそが本当に美しいのだ。
完璧である事は求めなくて良い。
水晶のように考えてみよう。
割れていた方が良いだろう。
不完全であることが完全なのだ。
私は完璧で完全だ。
歪な程に不完全だからだ。
私は形の無い存在だ。
いつでも世界を翻す事ができる。
裏切る事もできる。
捨てる事だってできる。
だが、それらを選ぶ事はない。
それは、私が私である為だ。
これは私の記憶の一部だ。
この記憶を見て何を想うのも自由だ。
本当に美しいものは何か。
夜が明けるまで考えてみてはどうだろうか。
美しきもの 神父猫 @nyanx
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