『小さな反発記念日』

愛彩

『小さな反発記念日』

『でも、女の子側も悪かったんじゃないかしら。ねえ。』

性被害のニュースを見た会社の女性の先輩がぽつり。


『そうかもしれないですね...。』

そう言って、いつも通り飲み込もうとしていたのに、次の瞬間、

『実はね、わたしも昔あるんです。似たような経験が。』

と口走っておりました。

そうして数年前の出来事をぽつり、ぽつりと話してしまったのです。



新入社員の頃。ちょっとセクシーさが漂う飲み会がまだ許されていた頃。

ピチピチ要因として、駆り出されたピチピチのわたし。

飲み会が終盤に差し掛かるにつれ、この先輩はあの男性と、あの先輩はこの男性と、セクシーな雰囲気になっていくのが、ピチピチのわたしにも分かりました。

あれよあれよとタクシーに乗って消えていく二人組。

居残り組は、ピチピチなわたしと、お偉い様と、その子分。

色々なところを周り、最終地点はお偉い様の御屋敷へ。

時間は流れ、ベストなタイミングで子分は眠りにつくのです。

眠りについたふり、をする訳です。

そうしてお偉い様が、ピチピチなわたしをいただきます。

いや、まだピチピチでしたので、必死で抵抗しまして。

いただかれませんでした。

良心が痛んだのでしょう、これまたベストなタイミングで子分が起きてくれたのです。

子分は、わたしを車でお家まで送り届け、そうして、励ましてもくれました。

『人生色々あるからねえ...。』

しかし、恨めしさしか無かったのを今でも覚えています。

子分は、これっぽっちも悪くないんですけれどね。

お偉い様に歯向かえない気持ちだって分かりますもの。


『昨日は、ありがとうね。』

翌朝、職場でお偉い様に肩にぽんっと手を置かれ、囁かれ、ぶるぶると震え上がったことも今でも覚えています。



『今となっては、もう笑い話ですが。』

昔話を面白おかしく、ポップに女性の先輩にお話ししました。


仕事終わり、女性の先輩から一通のメッセージが届きました。

『笑い話って言っていたけれど、全然笑い事じゃあないのよ。あなたは何も悪くないんだからね。わたしの発言で嫌なことを思い出させちゃったかな、と反省しています。ごめんなさい。』

こちらこそ反省しました。

ああ、気を遣わせてしまったのだな、と。

なんで話してしまったのだろう、とも思いました。

ですが、それと同時になんだかスッキリした気分でもありました。

きっと、今まで諦めて反発してこなかったことを初めて伝えられたからだと思います。

どうせ、『女の子側も悪かったんじゃないかしら。』と言われてしまう、と諦めていたことを。



一人暮らしを始めた時、友人から『男の子を連れ込む為でしょう。』と言われました。

本当の理由は、昭和ながらの祖父から離れる為でした。自分の心を大切にしたかったからです。

また別の友人からは、『貴方は、カタカナのエッチ、では無くて平仮名のえっち、って感じがするわ。』と言われました。

そうした小さな積み重ねで勝手に諦めておりました。

きっと自分も悪いんだわ、と自分で自分を納得させようとしていました。

納得したふり、をしていました。


祖父から離れて、心は平和になりましたし、後々、きちんと何人かの男の子も連れ込みましたけれども。


わたしが、初めて小さく反発した会社の女性の先輩は、本当に優しくて魅力的な方です。

この方であれば、わたしの反発もエアバッグのように吸収してくれるのではないかと思ったのです。


そう言えば、そんな素敵なエアバッグ先輩とお気に入りの歌が同じなのです。

隠しているから、気付かれないのよ、ってそういうフレーズがある歌です。


初めて、隠さずに、気付いてよ!ってアピールをしてみました。


久しぶりに昔のことを話して、思い出して、お風呂の中で、ぽつり、ぽつりと泣いてしまった訳ですが、なんだかほんの少しだけ成長できた気がしているのです。


誠に勝手ながら今日という大切な日を

『小さな反発記念日』にしたいと思います。

記念日を祝して怖い記憶とは、おさらば。

それでは。

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『小さな反発記念日』 愛彩 @omoshiroikao

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