エピローグ


 俺は、今までただの一度も、好きな女と付き合った事がない。



 夏凪と付き合ってた時もそうで、夏凪の告白には「お前を好きって気持ちはない」と告げた。



 それでもいいから――と、夏凪は言った。



 その頃の夏凪は、今とは違って至極真っ当な――純真で無垢な少女だった。



 そんな夏凪に、他の女とヤりまくってるのがバレたのは、付き合って半年ほどが経ってから。



「どうして他の人とエッチしたの……?」


 泣き喚くのではなく、肩を震わせ、涙ながらに聞いてきた夏凪に、まだガキだった俺は、開き直る事も出来ず、自分の立場が出来るだけ悪くならないようにしようと必死になってしまった。



 その結果。



「寂しかったから」


 どっかで聞いた事があるような理由を、まるでそれなら許されると言わんばかりに、言い訳の言葉として吐いた。



 夏凪にしてみれば、人生で初めて付き合って、処女を捧げた男に浮気をされた挙句、「寂しかったから」などと訳の分からない事を言われて、酷く辛かっただろうと思う。



 ただ、純真で無垢だった夏凪は、「寂しい」という気持ちは、セックスで埋まるものなのだと思ってしまったらしい。



 俺と別れてから、夏凪は「寂しい」と感じると、俺とセックスするようになった。



 その時、夏凪に彼氏がいようと、俺が誰かと付き合っていようと、「寂しい」と感じると電話をかけてくる。



 年月を経て、夏凪が電話をかける相手は、俺だけじゃなくなった。



 元カレにしか電話をしない夏凪の、その条件に当てはまる男は、今や数人いる。



 でも、その条件に当てはまる奴らは、夏凪を軽い女だと思って近付いてきた、くだらない男たちばかり。



 夏凪の名前の漢字を知らなかった事も頷けるような奴らばかりでどうしようもない。



 まあ「くだらない男」なんて、そもそもの元凶である俺が言えた義理じゃないんだけど。



 それでも夏凪にとって、多分俺は特別で。



 俺にとっても夏凪は特別だったりする。



 いつの頃からか、俺の中には、夏凪に対しての説明しづらい感情がある。



 抱いている感情がどういう意味のものなのか、自分でもよく分からない。



 俺のところに戻ってきて俺だけに抱かれてりゃいい――と、どのツラ下げてと思うような事を考える。



 その感情は、罪悪感か同情か。



 はたまた愛情か。



 それが分からないから、実際に言葉にはしないのだけど。



「ねえ、トーリ。あたし、明日もトーリとセックスする」


 俺の腕の中からそう言った夏凪は、俺のがナカに挿入ってるにも拘わらず、喘いだりはしない。



 夏凪にとってセックスは快感を得るものじゃなく、寂しい気持ちを埋める為だけの行為だから。



 夏凪の中には、ぽっかり穴が開いてるらしい。



 そういう感覚がずっとあるらしい。



 寂しいとその穴が大きくなるんだと、以前言っていた事がある。



 でも、何かが欠けているらしい俺には分かる。



 その穴はセックスでは埋まらないと。



 セックスはその場しのぎの誤魔化しなだけであって、根本的な部分はどうにもならないんだと。



 俺が言うのもなんだけど、多分その穴を埋めるには、「愛」が必要なんだと思う。



 夏凪が「寂しい」と言うたびに、俺には「愛されたい」と言ってるように聞こえる。



 夏凪は謂わば、ただがむしゃらに、愛を求めているだけなんだろう。





 そんな夏凪は周りの奴らに「ビッチ」と言われている。





 BITCH —ビッチ— 完

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BITCH ―ビッチ— ユウ @wildbeast_yuu

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