ビッチ
――トーリ先輩の名前って「冬」って漢字入ってんだね。あたし「夏」に「凪」って書いて「なづな」なの。名前に季節の漢字が入ってる仲間だね。
初めて
俺が高校三年、夏凪が高校一年の初夏。
授業をサボって保健室にいた俺の前に現れてそう言った夏凪は、それ以降校内で会う度に、同じ言葉をかけてきた。
――好きだから、トーリ先輩にあたしの事を覚えて欲しくて。
出会ってから暫く経って告白してきた夏凪は、毎回同じ話をしてきた事を、そんな理由からだったと言った。
それから始まった俺たちの恋人という関係は半年ほどで終わり、そこから今の関係が始まった。
俺たちのような関係を、世間一般では「セフレ」とでも言うのかもしれない。
夏凪の周りにいる、俺と夏凪の関係と同じ関係を持ってる奴らの中には、「セフレ」と呼んでる奴もいるかもしれない。
でも少なくとも俺にとっては、夏凪との関係を表す言葉として「セフレ」という言葉を使うのは、しっくりこない。
多分夏凪も、俺だけじゃなく他の奴らとの関係も、「セフレ」という言葉では表さないだろう。
それが証拠に夏凪の口から、「セフレ」って言葉を聞いた事がない。
だからと言って、どんな関係かと聞かれると、一言では説明しづらい。
そんな、夏凪との説明しづらい関係は、五年続いている。
それが一般的に、長いのか短いのかは分からない。
ただ、友達にしろ、恋人にしろ、セフレにしろ、説明しづらい関係にしろ、俺には夏凪以上の期間付き合いのある女はいない。
元カノに至っては、別れてから連絡してくる女なんて夏凪以外にいない。
歴代の元カノたち曰く、俺は「最低な男」らしいから、連絡が来なくて当然と言えば当然なんだろうが。
そういえば最近も、付き合ってた女に「最低な男」だと、別れ話の時に言われた。
「浮気してるでしょ」
一ヵ月ほど前、連絡も無しに突然家にやって来た女は。
「相手は高校の後輩なんでしょ? しかもその子って、男とヤりまくるのに忙しくて短大留年するようなクソビッチなんだってね」
どうやって調べたのか、夏凪の事を結構知っていた。
お陰で、過去に何度かあったように、浮気の相手はどこの誰か詰め寄られる事はないんだと、面倒事を回避出来てよかったと内心思った。
これまでは経験上、ヒステリックに喚く女が多かったけど、この女は違うんだと安堵した。
――矢先。
「何とか言えば?」
「何を言って欲しい?」
「はあ!?」
俺の返答を聞いた女の声色が、明らかに変わった。
それまで冷ややかな声を出していた女は、落ち着いていた訳でも、冷めていた訳でもなかったらしい。
怒りを溜め込んで、爆発するタイミングをただ待っていただけだったようだ。
そこから髪を振り乱す勢いで泣き喚きながら、延々と俺と夏凪を罵ってた。
言い訳くらいしなさいよ――と。
浮気なんてしてないって嘘でも言え――と。
実際に口にしたらしたでブチ切れるんだろって思う事を、散々言った女は。
「あんたみたいな最低な男、見た事ない! 顔がいいからって調子に乗ってんじゃないの!? そのツラ二度とわたしの前に見せないで!」
最後にそんな言葉を吐いて、帰っていった。
――最悪な男。
確かにそうだと思う。
ただ、その言葉を吐くどの女も、そんな事は最初から分かってただろう――とも思う。
付き合って欲しいと言ってくるのは、いつも女の方。
君に対して好きという気持ちがないと答えると、「それでもいいから付き合って欲しい」って感じの事を言うから、それでいいならと付き合うだけ。
なのに、付き合いが続いてくると、愛がないだの浮気をしただのと騒ぎ立てる。
俺からすれば、最初に言った「それでもいいから」は、どこに行ったんだって話。
俺が最悪ならお前たちも最悪だ――と、正直思っている。
そんな風に思う俺は、何かが欠けているんだと、男友達たちは言う。
そして続けて、「好きな女と付き合うようになれば考え方も変わる」と言う。
俺に言わせれば、何かが欠けているような人間が、好きな相手と付き合えるとは思えないんだが。
ただ、その「何かが欠けてる」からこそ分かる事がある。
ラブホテルのベッドの上。
俺に組み敷かれてる夏凪は、溺れているかの如く、俺の体にしがみついてくる。
何度も動きづらいと言ってるのに、やめる気配はない。
けどまあ。
「……おい」
「びったりくっ付いてないからいいじゃん!」
夏凪がそうしてくる理由が分かってるだけに、無理に引き剝がしたりは出来ないんだが。
だから夏凪を抱く時は、他の女を抱くようにはいかない。
「
「うん」
挿れる時とそこから暫くは、夏凪ご所望の前側位の体位をしなきゃならない。
ベッドの上で、横向きの体勢でお互い向かい合って、夏凪を強く抱き締める。
腰の辺りに手を回すと、夏凪が足を開くから、ゆっくりとナカへ
小さく
思いっきり腰を振りたい衝動は、抑えるしかない。
「これ、好き」
ご機嫌な声から、顔を見なくても満面の笑みを浮かべてると分かる。
「俺は正常位かバックでガンガンに突きまくるのが好きだけど」
「まだダメ」
クスクスと笑う夏凪は、俺の背中に回している腕の力を強めて、もっと抱き締めろと催促してくる。
ご要望にお応えして抱き締めてやると、俺のモノが挿入ってるナカがギュッと締まる。
抜けないように緩々と腰を動かしながら、夏凪の髪を撫でる。
夏凪は俺の胸に顔を埋める。
「……なあ、気付いてるか?」
「何に?」
「お前の『寂しい』が酷くなってる事」
「そんな事ないよお」
「まあ――」
――自分じゃ分からないんだろうな。
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