2024.12.17 「ユナイテッド93」('06)
「2001年9月11日
ユナイテッド航空93便は
ニューアーク空港からサンフランシスコに飛び立った
機内にいたテロリストたちが
爆弾を持って操縦席を占領し
乗員乗客たちは自爆テロに巻き込まれることを確信し、
動き出す決意を固める…」
↑午後のロードショー公式X(Twitter)の紹介文より。
2001年以降、9.11後の世界や9.11により起きた戦争などを描いた作品は多くなりました。あのテロは、それだけ、世界に与えた影響が大きかった。
この作品は、ダイレクトに9.11です。
同時多発テロが起こった日、ハイジャックされた飛行機で起きた出来事の映画。
実行犯の計画で唯一失敗した、ホワイトハウス突入。
犯人たちの計画ではホワイトハウスに突入するはずだった飛行機、ユナイテッド93便の話です。
このユナイテッド機のニュースは、日本では当時そこまで報道されていなかったような気がします。(※個人の感想です。もしかすると、ツインタワーの映像やペンタゴン突入の映像が、より強く印象に残っているだけかもしれないです。)
9.11が起きて、しばらくしてから、ユナイテッド機の話をTVか何かで見たんですよね。
だから、どうしてホワイトハウス突入が回避され、ユナイテッド機がどうなったか。
乗客たちがどうなったか。観る前から、私は知っている。
この映画を、気楽に観ないでしっかり観た方がいいよ、というべきか。
気楽に観ていいから、一度は観て、何が起きたか知ってほしいというべきか。
これはすごく難しいな、と思う。
調べれば、すぐにわかる話ですけど……今回はここで、ネタバレ注意喚起しておきましょうか。(初の、本編に触れる前に書いちゃうパターン。)
ネタバレは見たくないよ、って方は、ここで戻っていただけると、よいかもです。
9.11の前日夜、部屋で覚悟を決めている実行犯の姿から、場面は始まる。
それから、当日の記憶をなぞるように描かれていく、9.11当日朝の、管制塔の映像。
朝の空港で、ユナイテッド93に搭乗する乗客たち。
もうこの時点で「乗らないで」と声をかけたくなる。
離陸準備ができた、とアナウンスする機長の姿に、「頼むから離陸しないで、ここでみんな降りてくれないかな……」と祈る。当然、そんなことにはならない。
ユナイテッド93は、離陸する。
管制センターでは、複数の飛行機がハイジャックされた、という不確定情報が入り、情報収集に努めるが、そんな中、ツインタワーに一機目が突っ込んだと判明。
全米なみならず、世界中の航空管制センターは、瞬く間に混乱する。
そして、ツインタワーへ二機目が突入。
自分の中の記憶と、この作品で映し出される映像。思わず目を瞑りたくなる、緊迫感。
避けられない惨劇が起こると察した人間は、ただ静か。
それでもユナイテッド93の操縦士や副操縦士、CAさんたちはハイジャック及びツインタワーで起きた件の一報を知らず、「このフライトが終わったら何しようかな」なんて話をしているわけです。こういうシーンで、観ているこっちは、呻き声が漏れる。
そしてやっとユナイテッド93に、「ツインタワーに飛行機が激突、コックピットへの侵入者に注意」という連絡が入る。
けど、ハイジャックという文言がなかったからか、「パイロットは新人だったのかな?」ってさらっと流されて。
(この対応が、なんとなく軽すぎるから、このくだりはフィクションじゃないかな……? あぁ、でも当時の感覚でいえば、このテンションでもおかしくないのか……。9.11は、人々の意識を変えたんだ……。)
その直後、実行犯たちは計画をスタートさせる。あっという間に、ユナイテッド93便は実行犯たちに乗っ取られてしまう。
その間にも、ハイジャックされた飛行機をF16(戦闘機)で攻撃するべきか、と管制センターでは議論が起こる。(※市街地に墜ちた場合の被害を考えた結果の案。)
錯綜する情報、刻一刻と目的の地へ向かう飛行機。地上で見ているしかない面々のもどかしさ。
一方、ユナイテッド93の乗客の何人かは、機内電話から家族へ電話をかける。
そして、電話口の家族から
「ツインタワーに飛行機が二機突っ込んだ」
「複数の飛行機がハイジャック」
「ペンタゴンで爆発(※アメリカン77便の突入。おそらく、この電話の時点では飛行機が突っ込んだとはわかっていなかった模様)」
という情報を得る。
このままだと自爆テロに巻き込まれる、と察したユナイテッド93の乗客たちは、相談を始める。
コックピットにいる実行犯を倒して、飛行機を取り戻そうと、闘う計画を立てる乗客たちもいた。
家族や愛する人へ、最期の電話をする乗客たちもいた。
神に祈りを捧げる乗客もいた。
終盤はね……希望と絶望が繰り返し襲ってくる。
乗客の、闘おうとする意志に希望を感じる。いけるんじゃないかな、って仄かに思う。
でも死の匂いは濃くなるばかりなのも確かで。
これは、実話だから、結末は変わらない。
それが非常に悔しい。フィクションなら救いがあるのに、現実は容赦ない。
信仰は人を救うのか、殺すのか。
「ホテル・ムンバイ」の時にこう書きましたが、この「ユナイテッド93」だと、信仰が人を殺すのみ。救いになりゃしない。
その信仰心が、どうして人を救わずに、殺すための名目になるんだよ! って矛盾に、なんで気づかないんだろうか、と。
人間の命は尊い、は世界共通なのに。
ここからは余談です。
先日、NHKの「映像の世紀〜バタフライ・エフェクト〜」という番組で9.11の回を見たんです。
ツインタワーで犠牲になった日本人の方のご家族が出ている回。
突然の我が子の死に、ビン・ラディンへ9.11を起こした理由を尋ねたいと単身、アフガニスタンへ向かった方が取り上げられていて。
ビン・ラディンに会いに行った、その人は、もちろんビン・ラディンには会えはしなかった。
だけど、アフガニスタンの地で人々と交流する中で、「人々への支援が行き渡っていないから、過激派テロリズムが生まれるのでは」という答えを得た。
そして、その人は、アフガニスタンの人々への支援活動を始める。
そのくだりを見た時、人は人を救えるのかもしれない、と思った。
神が人を救うか否かはわからないけど、人が人を救う日はくるかもしれない。
でも。この話も、ただ、いい話で終わらないんだ。
アフガニスタンで支援活動していたその人は、一人の少年に出会う。
少年は、自分の街や家を攻撃したアメリカが大嫌いで、いつかやっつけてやる、と言う。
支援活動をしていたその人は、「憎しみは憎しみしか生まないよ(意訳、もっと優しく語りかけていらした)」と諭す。
いつしか少年は、大きくなったら学校に通って勉強するんだ、と夢を語るようになった。
これで一安心、と思いきや、その後のアフガニスタン国内の混乱の影響で、支援活動していたその人と少年の接点はなくなってしまう。
その後の少年のことを気にかける、支援活動していたその人のコメントが流れた後。
NHKの番組スタッフが調べた結果……と、続くんです。そこで読み上げられた内容は、
「アフガニスタン国内の空港で発生した自爆テロの実行犯に、少年と同姓同名の人物がいた」
……その事実を突きつけて、この回、終わるんですよ。
救いってどこに?
神って、こんな過酷な仕打ちしてくるの?
9.11は多くの人の運命を変えて、世界中の人々の常識を覆していきました。
広い意味で言えば、まだ9.11は終わってないし、終わる日がくるのかはわからない。
それでも、次の悲劇が起こらないように、必死で努力することは、無駄にならないと信じたいですね。
いつか、遠い未来でもいいから、悲劇の終わりを実現させるために、今の歩みを止めてはならないと思う。
最後に、9.11で犠牲になられた方々へ、謹んで哀悼の意を表します。
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