第48話

 離宮で過ごす残りの期間を、オスカリウスは毎晩のようにセラフィナのもとへ通った。もはやジュペリエは「なにも指導することはない」と言い残し、邪魔にならないためなのか、隣の離宮へ引きこもった。

 純白のネグリジェをまとったセラフィナは、今宵も夫となるオスカリウスの訪れを待つ。

 そわそわするこのときが、どうにも胸が弾んでしまう。

 嬉しくて恋しくて、ちょっぴり切ない。

 早く来てほしいのだけれど、でも、もしも来なかったらどうしよう……。

 そんなふうに悩んでいると、扉を開けたオスカリウスが颯爽と現れた。

「愛しい人。会いたかった」

「オスカリウス……!」

 外套を脱ぐ暇も惜しんで、オスカリウスはセラフィナを抱きしめた。

 愛する男の腕の中に閉じ込められたセラフィナは、朝が訪れるまで逃げられない。こうして囚われるのが心地よくて、最高に昂揚した。

 情熱的なくちづけを交わしたふたりは、天蓋付きのベッドに沈む。

 オスカリウスはキスをしながら、性急な、けれど優しい手つきで純白のネグリジェを脱がしていった。

「あなたの体のすべてを愛でたい。そう思いながら過ごす朝と昼は、俺にとって地獄の業火で焼かれるかのように苦痛だ」

「まあ……。私がオスカリウスを苦しませているのね」

 彼の外套と上着を、セラフィナは脱がせた。互いの衣服を脱がしながら交わす言葉はまるで、小鳥が水を啄むかのように喉を潤してくれる。

 オスカリウスは精悍な相貌に、笑みを浮かべる。けれど彼の表情はどこか切迫めいていた。

「いけないのは、俺の中で燃え立つ恋心だ。こんなにも恋しさを抑えきれないなんて、これまでの自分では考えられなかったことだよ」

 セラフィナの唇を啄みつつ、オスカリウスは愛の言葉を綴る。

「あなたに夢中なんだ。俺のすべてを受け入れてくれたなら、どんなに幸福だろう」

「んっ……私はもう、オスカリウスのすべてを受けとめたわ。私が欲しくて仕方ないなら、もっと乱暴に扱ってもいいのよ?」

「なんということを言うんだ……。その可愛らしい唇でそんなふうに言われたら、俺は止まらなくなってしまう……!」

 オスカリウスはセラフィナの唇と体を貪るように舐った。それは荒々しい愛撫ではあったが、決して乱暴ではなく、セラフィナを淫らに喘がせて快感を高めさせるものだった。

 やがてふたりは隙間なく、ぴたりとつながる。

 至上の喜びを得る瞬間だ。

「ああ……オスカリウス。あなたが私の胎内に入っているわ」

「俺のすべてが、あなたの中に入っているよ。あなたの花園は至上の楽園だ」

 ほう、と息を吐いたふたりは互いを確かめ合う。

 けれど、ふたりで紡ぐ愛の営みはこれで終わらない。

 逞しい背に縋りついたセラフィナは、オスカリウスの脈動を指先で感じた。

「あん……すごい、オスカリウス……好き……」

「俺もだ。好きだよ」

 やがて胎内に抱き込んだ彼の中心が爆ぜる。

 濃厚な子種が、セラフィナを孕ませるために体の奥深くまで注ぎ込まれた。

 恍惚として、セラフィナは強靱な腰に足を絡ませながら、彼の子種を受け入れる。

 息を整えたオスカリウスは、情欲に濡れた双眸を向けた。

「もう一度、いいだろうか。あなたを愛したい」

「……ええ、私も、もっと……」

 抱き合うふたりは再び高鳴る鼓動を重ねた。

 星の瞬きが息をひそめるまで、愛の営みは続けられた。


 愛し合う期間は瞬く間に過ぎ去り、やがてセラフィナが離宮で暮らしてから一か月が経過した。

 ジュペリエは一か月でセラフィナを懐妊させると豪語したが、医師が懐妊したと判定できるのはもう少し先なので、結果がわかるのはもうひと月後とのことだった。

 宮殿に戻ってきたセラフィナは、ほうと淡い吐息をつく。

 オスカリウスは皇配候補としての義務感でセラフィナを抱いたのではなかった。彼は心から、セラフィナを愛してくれたのだ。それは肌を重ねたことで、はっきりと伝わった。

 好きな人と愛し合う充実感に溢れ、体も心も幸せに満たされていた。

 あんなにも濃密に契りを交わしたのだから、本当に懐妊したかもしれない。そっと、自らのお腹に手を当てて、そこに新たな命が息づいてはいないか確かめてしまう。

 妊娠したかどうかはわからないけれど、彼の子が宿っていたなら嬉しい。

 ハーブティーを淹れたマイヤは、久しぶりに執務室へ戻ってきたセラフィナに微笑みかけた。

「お疲れになったでしょう。これからしばらくはカフェインを控えるため、紅茶ではなく、ハーブティーにいたしましょう」

「やだ、マイヤったら。まだ妊娠したわけじゃないのよ」

 カフェインは胎児の成長に悪影響を及ぼすため、妊婦は紅茶などに含まれるカフェインを避けるべきという定説がある。

 まるで本当に妊娠したみたいで、セラフィナは頬を綻ばせる。

 香りのよいカモミールティーを口に含んだセラフィナは、そろそろオスカリウスがやって来る頃かと胸を弾ませた。

 だがそのとき、外が騒がしいのに気がつく。

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