第5話 

 とある、寒い明け方の事である。


 雪が降り始めた。季節外れのチラチラと舞う白い雪であった。私は窓から外を見ていると。不思議な気持ち……私はこの気持ちを知っている。


そして、雪は積もること無く消えていく。


「おかしな天気だ、この時期に雪ですか」


 幾戸さんも窓の内側から、ゆっくりと舞う雪を見て呟く。


「幾戸さん、雪は嫌い?」

「えぇ、まあ」


 照れ臭そうに幾戸さんは返事をする。


「私は好き……たぶん……」


 コールドスリープをして記憶が無い私だけど何か感じるモノがあった。


 きっと、きっと、この雪は何か特別な思いを感じさせている。


 熱い、外は雪なのに心が熱い。


 それは心の中の瞳が蒼く輝く気がするのであった。


「立華さん!?」


 幾戸さんにも私の心が伝わったようだ。私を見て戸惑う幾戸さんは急いでカーテンを閉める。


 その瞬間に心の声が鳴った。


 『私、最低だよ。友達の気持ちを知っていて、一緒に雪を見ていたの……』


 それは雪の降った翌日のことであった。


「よし!」


 数学の特訓だ。幾戸さん面倒を見てもらうなんて恥ずかしい。私は参考書を広げ机に向かう。先ずは統計と、統計ってなんだ?


 細かい事は気にせずに勉強を始める。解りにくい問題もやさしいものから手をつける。


うーん、昨日の季節外れの雪に、心の瞳が蒼くなる感覚は何だったのだろう?


 問題が難しくなるにつれて昨日の事を思い出す。いわゆる気が散るとはこのことであろう。


 私は台所に行きインスタントコーヒーを淹れる。カップにお湯を注ぐと香りがたちこめる。気分転換には丁度よかった。


 そうそう、数学であった、頭が痛くなるとはこの事だろう。


 濃い目に淹れたコーヒーをすすりかがら勉強の仕方について考えていた。自分で解決すると誓ったのだから頑張らねば。などと考えながら自室に戻る途中で幾戸さんとすれ違う。

「立華さん、数学の勉強は進んでいますか?」

「はい」


 少し大変だけど勉強は確かに進んでいた。


『それでも、あなたは恋を取るの?』


 心の中から誰かが私に問いて来た。私は凄くドキドキしていた。


「立華さん?」


 幾戸さんの言葉を無視して部屋に急いで戻る。それは紅い瞳の想いであった。


 そう、私の心は蒼と紅のオッドアイのようになっていた。


 今日は土曜日。私は学校の進路指導室にいた。何故か、土曜日は解放され自習室になっていた。私はカリカリとひたむきに勉強にうち込む。


 ふと、進路指導室に置かれた大学のチラシに目がとまる。


進路か……。


 私の進路はどうなるのであろう。この勉強量からして国立の上部が狙える。勉強する手は止まりシャーペンを道具にして時間をつぶす。


 うん?メッセージだ。それは零菜からであった。


 私はスマホを手に取るとメッセージの中身を見る。


『ごめん、今日、会えるかな?』


 私も零菜に会いたかった。勉強道具を鞄にしまい、返事を考える。この町では適当な場所が無いので、零菜の家からも近い学校の例の自販機前で会うことになった。


 約束時間まで30分。


 私は独りで屋上に行く。日差しが私の頬を照らす。何を思いここに来たのだろう?


 誰も居ないグランドに向かって、私はおもいっきり叫ぶ。


 よし、スクワットだ。汗が体を包む。屋上のコンクリートが熱くなるように、私も熱くなった。待ち合わせ時間にはフラフラになっていた。


 いかん、遅れる。汗だくのなか走り始める。私の中の迷いは消えていた、零菜と正面から向き合おう。


 そして、零菜は笑顔で明るく話始める。幾戸さんのことは一晩泣いたらスッキリしたと。


 それは泣いて、泣いて、泣いて、終わる恋であったと。


 零菜との気まずさは無くなっていた。私はガブガブとスポーツドリンクを飲み乾すと零菜もガブガブとリンゴジュースを飲む。


 もう一本と、スポーツドリンクを買いガブガブと飲み始める。


 零菜は口を押えて大笑いであった。

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