第4話
自宅に帰るとご飯も早く済ませて、零菜とメッセージ交換をする。
『立華は本当に幾戸さんの事が好きなの?』
きっと、この私への問いの答えはどんなAIや記憶装置にも載っていないはず。
……。
……。
零菜と共に長い沈黙が流れる。そう、私はこの町では有名人である。コールドスリープをして、幾戸さんの元に転がりこみ、一緒に暮らしているのは誰でも知っている。
嫁が来たと大喜びの町長をはじめ、皆は幾戸さんと結婚すると噂している。零菜は私の友達としての経由で幾戸さんと何度か会い。そして、特別な存在になったのだろう。
こんな狭い町だから昔から気になっていたのかもしれない。
そもそも恋愛感情とは何であろう?私にとって好きって感情は曖昧なもの……。
ただ、求めるのが恋愛感情なのか、生物学的にどうのこうのなのか……。
私は幾戸さんや零菜のことがグルグルと回り色々考えていた。零菜が沈黙を破り、メッセージに『私の出番はないか』と送ってくる。そして、なにかメッセージを返さなくてはと頭をフル回転させる。
『私、バカだから、恋愛感情が本当はどんな気持ちなのか、分からないけれど。幾戸さんは特別な人……そして、幾戸さんも特別な人として私を扱って欲しいの』
記憶の無い私は精一杯の想いを伝えてみだ。
その後、私はシャワーを浴びていた。上から顔に降る水はすべてを忘れさせてくれた。
いつまでも、いつまでも、浴びていたい気分であった。
零菜はあれから、無かったことにしたいと言い。
『大人の幾戸さんとは女子高生の私には釣り合わないよ』とメッセージが来て、零菜はあえて道化を演じていた。
きっと、難しい恋だと分かっていたのだろう。
私は長いシャワーの後、家の小さな庭に出ていた。髪をタオルで拭きながら夜空を眺める。
空に赤い星が輝いていた。輝く星は綺麗であった。昨日は三日月が見えたのに今日は雲に隠れているのか確認できなかった。
「赤い星が見えますね」
幾戸さんが庭に降りてきた。
「月が見られないの、でも、今日は月より星の気分だから満足しているよ」
私は贅沢だ、幾戸さんを独り占めして、親友との関係もそのままなんて。それでも本当は幾戸さんの胸の中に飛び込んで泣きたい気持ちであった。
「立華さん、高校に通う生活は慣れましたか?」
幾戸さんは私の隣に寄り添い笑顔で私に話かけてくる。
「えぇ……」
もちろん、零菜の事は知らない。私は言葉を選ぶしかなかった。
「数学が苦手だと聞きましたが、これでも理系の端くれなので、もし、よろしければ見てあげましょうか?」
優しいなよ、私は頬を赤め戸惑う。イヤ、うろたえるに近い。少し幾戸さんの顔を見ると相変わらず笑顔のままだ。
高鳴る気持ちに、なんで自分の気持ちは自由にならないのだろうと神様に問う。
恋も全力で走れたらなら。
夜空の下、静かな町の一軒家に静寂が支配する。沈黙の後、私はリップを取り出してそっとつける。
本当は幾戸さんの唇をそっと奪い取ってみたくなった。でも、私の中の冷静さが邪魔をする。
きっと、私から唇を奪っても恋人同士にはならない。わからないけど、もっと心が触れ合うことがしたい。
「ど、どうしたのですか?顔が真っ赤ですよ」
「うん、少し、長くシャワーを浴びすぎかな」
心配そうな幾戸さん、そんなところに私は心を寄せているのかもしれない。
「部屋に戻るよ……、数学を教わる話は考えさせて」
「はい」
私は落ち着かない心でゆっくりと歩きだし自室に戻るのであった。
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