第22話 血筋
『なんだって!?』
――――っ、い、今の声って、雅様!?
雅様の焦ったような声が、一人で素振りをしていた私にまで聞こえた。
「何かあったのかな……」
雅様があそこまで焦った声を出すのなんて、初めて……。
部屋まで、少し様子を見に行きましょうか。
雅様の部屋に行き、中に声をかけてみると焦ったような声が返ってきた。
一応、開けてもいいみたい。
「失礼します……」
中に入ると、雅様はもちろん。あとは響さんと――……
「父様?」
「美月……。すまない、勝手に来てしまって……」
雅様と響さん、それとなぜか、父様が正座をしていた。
私を見た父様は気まずそうに視線を下げる。
私も、気まずい。
え、どんな顔をすればいいの? どんな顔を浮かべて、父様と会えばいいの?
「久しぶりの親子の再開なのに、なぜお互い気まずそうにしている」
「そりゃ気まずいでしょう、雅。経緯が経緯です。そこはしっかりと考えましょう」
「そういうものか?」
「そういうものです」
雅様と響さんが話しているけれど、その内容は耳に入るだけで脳で処理が出来ない。
それより、この空気をどうにかしたい。
「え、えぇっと。と、父様。お、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「あ、あぁ。元気だ。美月も、元気そうでよかった」
私が元気と言うと、本当に安心したように息を吐いた。
さっきまで不安そうにしていたのに。
「本当に、良かった……。ありがとうございます、雅様。本当に、ありがとうございます」
父様が頭を下げ、雅様に何度も何度もお礼を言っている。
雅様は――――困ってる。
いや、何も言っていない。手でも何も合図していない。
ただただ、表情で困ってる。
その顔、なんていう顔でしょうか。
なんか、眉間に皺が寄っているという表現も違いますし、かといって怒っている訳でもありません。
困惑している、困っている。
そのようにしか表現が出来ない顔を雅様が浮かべております。
「…………頭を上げよ、久光。そのように言われると普通に困る。それに――……」
雅様が、私の方を向く。
手招きされたため、隣に座った。
すると、何故か肩を抱き寄せられた!?
「み、みみ、雅様!? な、なななな、なにを!?」
「俺様も、美月と出会えてよかったと思っている」
――っ、雅様?
「俺様を怖がらず、共に笑ってくれる。それだけで、俺様にとっては何よりも喜ばしいことだ。かけがえのない、宝物だ」
っ!! そ、そんなこと、言わないでくださいよ、雅様。
今度は私が、雅様と同じように困った顔を浮かべてしまいます。
「――――ありがとうございます。雅様、本当に」
「もう、礼はいらん。本題に戻りたい」
あ、そうだ。
雅様が大きな声を出していた理由、それは一体なんなんだろうか。
雅様が言うと、父様が視線を下げつつ姿勢を整えた。
「美月に、聞かせてもよろしいのですか」
「それは俺様が決めることではない。血の繋がりがある、親子で決める話だ」
私を横目で見て、雅様が言い切った。
な、なに? そんな言い方をされるとものすごく怖いのですが……。
「あ、の、いったい…………」
「…………桔梗家についてだ。話していたことは」
え、桔梗家に、ついて?
「それを改めて雅様にお話しされていたのですか?」
「そうだ。改めて話さなければならない事が、あるんだ。桔梗家には……」
父様の目が、不安そうに揺れている。
いつも自信が無くて、母と姉に言われるがまま。頼りなかった父様が、不安そうにしているとはいえ、私と目を合わせて話してくださる。
父様と目を合わせたのって、いつぶりだっただろう。
「――――聞かせてください。桔梗家は私が生まれた家です。知る権利があります」
「少々、残酷かもしれないが、それでもいいか?」
「はい」
どんな話でも受け入れる。
受け入れないと、いけない。
だって、私は、紛いなりにも桔梗家の次女なんだから。
「そうか。それなら、話そう。まず、最初はお手柔らかのところから」
ゴクリ
「まず、姉の美晴についてだ。あいつには、桔梗家の血が入っていない」
「お手柔らかとは!?!?」
えっ、どういうこと?
血が入っていない? え? な、どういうこと?
「美晴は、美郷と一人の武士の中に生まれた子供なのだ」
「美晴、姉様が?」
た、たしかに、今まで違和感はあった。
だって、私は父様に似ている。でも、美晴姉様は、似てない。
目元も、髪質も、何もかもが違う。
美晴姉様は母に似ているけれど、父には似ていない。
納得、出来る……。
「それは、久光は知っていたのか?」
「知っていた。だが、何も出来なかった。私は、何も言えず、受け入れるしかなかったのだ」
苦し気に胸を押さえ、父様が項垂れる。
桔梗家は、父の血が無ければ力を授からない。
父も、そのようにして力を受け継いだ。その力は、相手の心を読むことができる力。
いつでも読める訳ではなく、意識的に発動できるみたい。
そして、父と婚約を結んだ者も、力を授かる。式をする時に、受け継ぐらしい。
それなら、母が力を受け継ぎ治癒の力を扱えるのには納得は出来る。
けれど、それならなぜ、美晴姉様は力を受け継げたの?
血も流れていない、婚約なんてできる訳もない。
それなのにどうやって、母と同じ治癒を受け継ぐことが出来たの?
「美月。美晴はね、私と美郷が婚約した後に、力を受け継いだ後に生まれた子なんだよ」
「――――つまり?」
「美郷の血には、桔梗家の力が込められている。同じ血が流れている美晴にも、薄いとはいえ力が受け継がれたんだ。ただ、これには欠点があるんだ」
「欠点、ですか?」
それは一体、なんだろう。
「力は、美郷の力しか受け継ぐことが出来ないんだ」
「っ。だから、美晴姉様は、母様と同じ治癒の力が宿ったという事でしょうか」
「そういうことだ」
そ、そうだったんだ。
考えもしなかった現実に、頭がクラクラしてきたな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます