第13話 栄町
無事に町へ出た私と雅様。
先に雅様が馬車から降り、私が手を借りて降りる。
顔を上げると、そこには夢のような空間が広がっていた。
お店が並ぶ町、沢山の人が行きかう道。
皆が皆、輝く笑顔を浮かべている。
「わぁ、これが、町……」
「ここは栄町と呼ばれ、この国、
「名前の如くって、感じですね」
こんなに多くの人が行きかう町に来たのは初めて――いえ、町に出た事すらありませんでした。
今まで、ずっと桔梗家の一室で一人、本を読んでいたから……。
町がどのような所なのかは、本を読んで少しは知っていたけれど、本物はやっぱり違う。
凄くキラキラと輝いていて、見ているだけで心が弾んでしまう。
「では、行こう。最初に言っておくが、周りの目などは一切気にするなよ?」
「は、はい」
そう言えば、雅様は町の人に冷酷無情だと勘違いされているお方なのでした。
その勘違いを正したいのですが、流石に私ではまだまだできませんね。
今回は、少しでも雅様が周りの目などを気にしないで思いっきり楽しんでいただけるように、私も全力を出そう!
雅様が前を歩き、私が後ろを歩く。
置いて行かれないようにしないといけない。
…………しないと、いけないのは分かっているのですが……。
「…………」
やはり周りのお店が気になり、歩みが遅くなってしまう。
少しでも目が逸れると、前を歩く雅様と離れてしまい、駆け出し追いつく。
やはり、歩くの早いですねぇ。周りを楽しむ余裕がない……。
でも、雅様と共に居るだけでも、私は幸せです。
──あ、あれ?
なんか、周りの人が私達を見て耳打ちしている。
「雅様よ」
「お嫁さんが嫁いできたとは聞いていたけど、あの子かしら……」
「可哀想に。あんなに必死に追いかけて……。もっと気にしてあげればいいのに……」
「本当よねぇ、可哀想……。お屋敷でもあんな感じで放置されているに違いないわ」
??
可哀想? 私が? なんで?
なんで、可哀想と言われなければならないのでしょうか。なんで、哀れみを向けられないといけないのでしょうか。
「…………美月」
「っ、あ、す、すいません」
いつの間にか目の前に雅様が立っていた。
私が立ち止まってしまったから気にしてくれたんだ。
「何か気になる店があれば言え」
「…………わかりました」
気まずそう、雅様……。
そういえばさっきの人達、雅様と居る私を哀れんでいた。なんでだろう……。
うーん。哀れに思われる理由が思い当たらない。
あっ、そうだ。
哀れに思われている理由は分からないけれど、少なからず私が幸せそうだと分かれば、周りの人はそんな目を向けないはず!
でも、どうやって?
幸せだって大きな声で言う? そんなことをすれば、雅様が変に思われてしまう。
なら、笑う? いやいや、一人でに笑いだしたら変な人じゃん。
えっと、えっと……。
「…………おい、何を考えている」
「な、何も考えておりません!!」
「そうか」
あ、また先に行ってしまった。
うーん…………。
私、本当に幸せなのに……。
桔梗家にいた時より、何倍も、何十倍も。
誰とも話せず、ずっと一人。不吉だと言われた私が、今は町に出る事が出来ている。
それだけで、今までにないほどに幸せで仕方がないのに……。
哀れに思われるのって、辛いです。
「…………み、雅様!」
「っ、ど、どうした?」
「私、あそこのお店が気になります!」
指さした先にあるのは、本屋さん。
咄嗟に指さした先が、本屋さん。運命でしょうか。
「――――そういえば、本が好きだと言っていたな」
「は、はい。桔梗家にいる時は、いつも部屋で本を読んでいたのです。それ以外にやる事がなかったので…………」
他には、美晴姉様の宿題をしていたけどね……あはは……。
「そういえば、雅様は普段、本をお読みになるのでしょうか」
「読まないな」
がーーーん。
よ、読まない、しかも、即答。
「そ、そうですよね。読んでいる時間すらないですよね……。すいません、他のお店に行きましょう…………」
「えっ」
そうですよね、私が時間を持て余していたから本をたくさん読むことが出来ただけ。
雅様みたいに忙しい方が、本を読む時間など確保できるわけがありません。
私と同じ基準で考えてはいけない。
なんて失礼なことをしてしまったのでしょうか。
「美月」
「っ、は、はい」
「行くぞ」
――――あ、手を握られた。
大きくて、温かい。私の小さな手なんてすっぽりと埋まってしまう。
「本屋か、あまり行ったことなかったな……どうした?」
「み、雅様の手、温かいなって…………」
「っ! そ、そうか…………」
あ、雅様に顔を背けられてしまいました。
耳が赤い、口元を抑えている?
「雅様?」
「行くぞ」
「え? は、はい」
前を向いてしまったので、顔を見れなくなってしまった。
ど、どうしたんだろう。
※
雅は、顔が赤くなる感覚があり、慌てて美月から顔を逸らした。
ただ前を歩き、本屋に入る。
「まったく……。勘弁してくれ」
「何か言いましたか?」
「なんでもない」
実は雅は、緊張し過ぎていて周りの視線と会話に気づいておらず、ただただ固くなっていただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます