第12話 おそろい

 部屋に戻る途中、雅は女中に呼び止められた。


「どうした」

「こちらがまた……」


 女中が手に持っていたのは、一通の封筒。

 それを見た雅は眉間に皺を寄せ、封筒を受け取った。


 裏を見ると、宛先と送り主の名前が書かれている。


「――――桔梗、美晴からか」

「はい」

「これで五通目。よく、飽きぬな」


 今までも封筒は届いており、中を確認していた。


 中身は、どれも美月を気遣うような言葉を並べてはいるが、結局自分が上の立場だと思い知らさせるもの。


「いかがいたしますか」

「美月に見せる訳にはいかぬ。これは、俺様が預かる」

「わかりました」


 懐に封筒を入れ、雅はまた歩き出す。

 自室に戻ると、深い息を吐き出した。


 押入れの襖を開き、中から小箱を出す。

 蓋を開けると、中には同じ封筒が四枚入っていた。


 どれも、送り主は美月の姉である、美晴である。

 難しい顔を浮かべながらも、小箱の中に五つ目の封筒を入れ蓋を閉めた。


 元あった場所に戻し、座布団に座る。

 机に顔を向け、筆を取った。


 いつものように仕事をしようとしたのだが、思うように手が進まない。


「…………はぁ」


 突然頭を抱えたかと思えば、深い溜息を吐いた。


「……明日、どうすればいいんだ……」


 美晴の手紙などもうどうでも良くなった雅は、自分の立場と、周りからの視線を思い出し、ただただ悩む。


 仕事が進まないのなら、その悩みを解決しようと頭の中を整理し、咳払い。

 仕事資料を横に置いたかと思えば、懐から眼鏡を取りだし、表情を切り替えた。


「明日の予定を練れるだけ練ろう。少しでも、楽しんでもらえるように――……」


 ※


 次の日、私は起きた途端、響さんに引っ張られ衣装部屋に連れていかれた。


「今日は逢瀬の日! 絶対に成功してもらいたいわ~」

「お、逢瀬!? そ、そんなわけが……っ!!」


 な、なんでそんな大きなことになっているのでしょうか!?

 逢瀬なんて……。私如きが、雅様と逢瀬なんて!


「ですが、貴方達は夫婦になるのよ? 逢瀬くらいは当たり前なのでは?」

「ふ、夫婦……」


 た、確かに……。夫婦になるのです、逢瀬は当たり前……です。


 顔が、赤くなるのを感じる。

 まだ、慣れないなぁ。私が、嫁ぐことになるなんて。


 今だに夢なんじゃないかと思ってしまう。


「今日は目一杯楽しんでくるのよ? 雅も色々不安そうにしているけれど、安心してね」


 ??? 不安そうにしているけど安心して? どういうこと?


「では、始めますよ!」

「は、はい……」


 また私は、今まで着たことがない、本でしか見ない服を沢山試着する事となりました。


 ※


「お待たせしてしまい申し訳ありません!」


 雅様とは、お屋敷の出入り口で待ち合わせをしていた。

 行くともう雅様は待っており、慌てて走る。


「そこまで待っていなっ――――母上か……」

「は、はい……」


 今回は外注した物ではなく、着物。

 だけれど、質感や柄が豪華すぎる。


 豪華すぎるというか、その……。


「まさか、俺様と同じ柄にするとは……。さすがに女性に着せる柄ではないだろう……」

「あはは……」


 ですが、私の方は旦那様のように竜が大きく描かれているわけではなく、竜胆りんどうと呼ばれる花に囲まれ、小さな竜が自由に舞っているような柄。


 そこまで目立つものでもないため、私は好き。


 豪華なのには変わりないけど!!!


「まぁ、よい。行くぞ」

「あ、はい……」


 やはり、私にはこのような素敵な着物は似合わないのでしょうか。

 あまり、目を合わせてくれない……。


 雅様に引かれるがままに馬車に乗る。

 膝に手を置くと、向かいではなく、雅様は私の隣に座った。


「また、下を向いておるぞ」

「あ、す、すいません……」


 また、顔を上げさせられてしまった。


「…………? どうした?」

「い、いえ、あの……。やはり、私にはこのような素敵な着物は似合わないなぁって思いまして…………」


 雅様から思わず目を逸らす。

 白地に、竜胆の花。雅様と同じ竜が刺繍されている着物。


 豪華すぎるし、私みたいな根暗な女には到底似合うはずもない。


 恥ずかしいな、雅様の隣を立つにまったく相応しくない。


「何を言っている。綺麗すぎて逆に目が合わせられないぞ」

「…………え?」


 思わず雅様を見ると、何故かサッと顔を逸らしてしまった。


「い、いきなりこちらを見るな。こ、心の準備というものがあってだな……」


 雅様の耳が、赤い。

 照れて、おられるのでしょうか。

 私で、照れているの、ですか……?


「~~~~~~っ!?」


 そ、そんなことを言わないでくださいよ雅様! わ、私も貴方を見れなくなります!


 お互い話せなくなった馬車の中。でも、不思議と不快ではない。


 というより、恥ずかしすぎてそれどころでありません!!

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