高校1年生⑭
『夜琉くん!わたあめ一緒に食べよ!』
13歳の夏、初めて夜琉くんと一緒に近所の夏祭りに行った。
『わたあめって何ですか?』
祭りに初めて来た彼は、先ほどから屋台を物珍しそうな顔で見ていた。
祭りの定番といっても過言ではない「わたあめ」も食べたことがないみたいだ。
『わたあめっていうのはね、ふわふわしてて、甘くて美味しいのだよ!』
500円玉を握りしめ、わたあめを売っている屋台に向かう。
『わたあめ1つください』
『はいよー!ほい』
『ありがとうございます!』
お店の人から受け取って、夜琉くんに差し出す。
『はい!食べてみて!』
夜琉くんは恐る恐る口を近づけてパクっと小さく食べた。
『……っ!美味しい!』
『でしょ!私わたあめ一番好きなんだぁ~!』
2人で一緒に食べてたら、あっという間にわたあめは無くなった。
『夜琉くん、気になるお店とかあった?』
『えっと、金魚すくいというのをやってみたいです』
『いいね!さっき来るときにお店あったよね!行こ!』
夜琉くんの初の金魚すくいは、まあ惨敗だった。
3回やって一匹もすくえない夜琉くん。
『まあ、金魚すくいってけっこう難しいし!いったん他の出店に行ってみよ…』
『…もう1回やります』
成功するまでやる、という態度の夜琉くん。
夜琉くんが意外と負けず嫌いだということを、初めて知った。
しかし、このままではしばらく金魚すくいの前から動けそうにないと思った私は、夜琉くんに「私がサポートしようか?」と提案する。
『はい。ぜひお願いします』
『任せて!』
網とお椀を持っている夜琉くんの手の上に、私の手重ねる。
『まず、網はそっと水に入れて、金魚が網の上に来るまでじっとしてること』
赤い小さな金魚が網の上に来た瞬間、私は重ねていた夜琉くんの右手をさっと動かした。
チャプンと、小さな赤い金魚が左手に持っていたお椀の中で泳いでいる。
『やったね夜琉くん!』
『はい!あさひのおかげです。本当にありがとうございます。この金魚は大切に育てます』
いつもどこか感情をセーブしている彼が、この時は本当に心の底から喜んでいるみたいで、私もとても嬉しくなった。
命の恩人として彼を要求します。 夜賀 響 @natu_hoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。命の恩人として彼を要求します。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます