高校1年生⑨
その後の授業でも、ほとんど寝てばかりだった槇井くん。
「槇井くん!さ、一緒に補習受けに行こっか!」
帰りのHR後。
まだ寝ている槇井くんをなんとか起こし、補習室へ向かう。
「あ、あさひちゃんヤホー☆」
補習室には、すでにゆらっちと佐々木くんの姿があった。
「あ、その人が槇井くん?」
ゆらっちが私の隣にいる彼に視線を移す。
「そう!槇井くん、この2人は……」
と、槇井くんに2人を紹介しようと思っていたら、スタスタと席に座って、また寝てしまった。
「お〜!槇井くんはマイペースな子か!面白いね」
さすがゆらっち。
傍からみたらちょっと愛想が悪い感じに見えなくもない槇井くんの行動を、ニコニコとそんな一言で片付けられるなんて、良い子だ〜!!
「槇井、中学の時から変わんないな」
「え、佐々木くん、槇井くんと知り合い?」
「知り合いってか、同じ中学だったんだ。いつも寝てるのに、成績はめっちゃ良いから、天才なんて呼ばれてたけど」
槇井くんって頭いいのか……。
授業態度見る限り全然そんな感じしなかったけど。
つまり、テストをちゃんと受けてれば補習する必要がなかったってことだよね?
え、やっぱりもしかして、私がこの学校で一番のバカなのでは!?
勝手に仲間かと思ってごめんね槇井くん。
そんなこんなで、4人で1週間しっかり補習を受け、再テストは無事合格できた。
「あ、槇井くんおはよ」
「羽野さんおはよ」
登校中、身知った後ろ姿をみかけた私は、彼に駆け寄った。
「今日はいつもより登校早いんだね」
「うん。アラームかける時間を間違えて早く起きちゃったから」
ふわぁと欠伸をする槇井くんの髪に、なにか付いているのが見えた。
「槇井くん、髪に葉っぱついてるよ」
「んー羽野さん取って」
私の身長に合わせて、少し屈んだ槇井くん。
「はい、取ったよ」
「ありがとう」
補習に毎回連れて行ったり、移動教室の時は毎回起こしてあげたり、たまにお菓子をあげたりしてるうちに、少しだけ槇井くんが懐いてくれた気がする。
懐くって言い方もどうかと思うけど、友達よりはそっちの方がしっくりくる。
「槇井くん、昨日出された宿題やった?」
「うん」
「ほんと!?私わからないところがあって、ちょっとそこだけ写させてくれないかな?」
「いいよ」
「ありがとう!良かった~。槇井くんのことだからやってないかと思ってたよ」
入学してから毎日宿題が出されているが、槇井くんが宿題を提出しているところは1回も見たことがなかった。
だから今回もどうせやってないだろうな~と思ってたんだけど…。
「先生に宿題出さないとまた補習させるって言われたから仕方なく」
先生ナイス!
ちなみに私は宿題はきちんと提出している。その答えが合っているかどうかは別として・・・。
「そういえば、補習なくなっちゃったから、ゆらっちや佐々木くんともあんまり会えなくなっちゃったね」
せっかく仲良くなったのに寂しいなぁ。
補習は嫌だったけど、2人と仲良くなれたことはすごく嬉しかったし楽しかった。
あの時間が無くなってしまうと思ったら寂しくて、ため息が出る。
そんな私の横では、「あぁ…そういえばいたね、そんな人たち」と槇井くんが淡々と呟いた。
「…槇井くん、人に興味なさすぎでは?」
「そんなことはないけど……人の名前と顔を覚えるの苦手なんだよね」
たしかにそういう人もいるだろうけど、1週間同じ人と顔を合わせてたらさすがに覚えるんじゃ?と思ったけど胸にとどめておいた。
「私のことは覚えてくれて良かったよ」
「…羽野さんはうるさいから嫌でも覚えた」
「うるさい!?え、これまで槇井くんのお世話してあげてたのに!」
まさかそんな風に思われてたなんて…。
ショックで首を垂れていると、隣でふっと笑う声がした。
「冗談。羽野さんは、ばあやに似てるから覚えた」
ばあや?それって褒め言葉・・・?と思っている私のことを見透かしたのか、
「褒め言葉だよ」
と言葉を付け足された。
ばあやって、お金持ちの家で働いているメイドさん?みたいなことだよね?
槇井くんはもしかしたら私と同じで普通の家庭なのかなとか思ってたけど、やっぱりお金持ちの家の子なのかな?
ほんとうに謎すぎる。
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