高校1年生⑦

放課後、補習を受けるため3階の空き教室に入ると、すでに2人、男子生徒と女子生徒がいて、仲良さげに話している。


もしかしてカップル?


いや、でも男の人はザ・普通の男子生徒って感じだけど、女子生徒はなんかすごい派手だし……。


普通に友達かな。


いいなあ。友達と一緒なら、まだ補習も少しは楽しくなるのに。


羨ましく思いながら、とりあえず後ろの席に向かおうとしたとき、


ガシッと突然掴まれた腕に「え」と声が漏れる。


「ねえ、あなたも補習組?名前何ていうの?何組?」


派手な女子生徒は、私の腕をつかんで離さないまま質問を浴びせる。


戸惑いながらも、聞かれたことに素直に答えると、


「そっか、あさひちゃんね!私、D組の氣仙優良きせん ゆら!よろしく~☆」


はにかんだ笑顔でそう言う彼女に、私も笑って「よろしくね」と返す。


「ねえねえ、あさひちゃん私の後ろの席座らない?そしたら一緒に話せるし~!」


ちょっと迷ったが、一人ぼっちは楽しくないし、なんだか良い子そうだし、大人しく彼女の後ろの席に座った。


「俺はC組の佐々木勇樹ささき ゆうき。よろしくな!」


彼女の右隣りに座っている男子生徒は、どうやら彼女とは違うクラスらしい。


「2人とも仲よさそうだったから、てっきり同じクラスだと思ってたけど違うんだね。中学校からの友達とか?」


「ん~ん、違うよ?」


「いや、全然知らないな」


「え、違うの!?」


「うん。っていうか、今さっきここで初めて会った~!」


「俺が教室に入ったら、先にこいつがいて、なんか話しかけられたから喋ってただけだ」


さも当たり前かのように話す二人に、「へ、へ~そうなんだ」としか返せない私。



え、2人ともコミュ力高すぎない?


2人にとっては、初めてあった人に対しての距離感というか接し方は、これが普通なの?



戸惑う私を置いて、2人は楽しそうに会話を続けている。


「ていうかお前、その髪色校則違反じゃね?よく教師に怒られないな」


「え~だってピンク可愛いじゃん。それにちょっとは怒られたよ~。だから補習受けることになっちゃったし」


「まじか。テストは受かってたのか?」


「もち!」


「何点?」


「92点」


「は!?」「え!?」



彼女から出た数字に、私と佐々木くんの驚きの声が重なった。



「え、お前、92点もとったのかよ……」


「そうだよ~」


信じられない、と口を開けたまま呆然としている佐々木くん。


いや、私も正直びっくりしたけど。


見た目はチャラいのに勉強はできるなんて……。


「す……」


「す?」


「す……すごい!!すごいね氣仙さん!!あのテスト、入試のよりも結構難しい問題だったんでしょ?なのにそんな高得点を取れるなんて天才!?」


「え~そんな褒められると照れる~!ていうか、私の事はゆらっちって呼んで~」


「ゆらっちって、あだ名?」


「そ~。私、堅苦しいのは嫌だし、友達にはあだ名で呼んでほしいな☆」


「わかった!じゃあゆらっちって呼ぶね!」



まさか補習で記念すべき高校生活最初の友達ができるなんて・・・!補習になって良かった!!


「じゃあ俺もお前の事、ゆらっちって呼んだ方が良いのか?」


「いや、男子にゆらっちって言われるのはちょっと」


「なんでだよ!」


まるでコントのような佐々木君とゆらっちのやりとりに、思わずぶはっと吹き出してしまった。


「あはははは!」


「え!?そんな笑うとこ!?」


「だって・・・ゆらっちが真顔で言うんだもん・・・ふはははっ!」


「ゆうきくんはふつーにゆらっで呼んで✩」


ピースをするゆらっちに、「はいはい」と呆れたように笑う佐々木くん。


「あ、私のことも下の名前で呼んで!」


「おう!じゃあ俺もあさひって呼ぶな!」


「うん!」


その後3人で盛り上がっていると、


「待たせて悪いな。全員揃ってるかー」


少し白髪混じりの学年主任が教室に入ってきた。


教壇に立って名簿と私たちを見比べると、 「1人足りないな。羽野、槇井はどうした?」となぜか私に問いかける先生。


「え、槇井・・・?」


「ああ。お前と同じクラスだろ」


「え?」


そんなこと言われてもクラスの人の名前をまだ覚えてない私には誰のことを言っているの全く分からない。


「はぁー、1日目からサボりか。まったく・・・。羽野、同じクラスメイトなんだし明日は槇井も連れてくるように」


「ええ!?」


なんで私が!?


「ドンマイ羽野」


「あさひちゃんファイト♪」


他人事のように軽い2人の言葉を聞きながら、深いため息を吐いた。

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