出会い2


――――なんて思っていた翌日、私はすぐにその子と再会することになる。


「この度はうちの息子を助けてくれて、本当にありがとうね」


「い、いえ……」


「君がいなかったらこの子はきっと無事ではすまなかっただろう。いやあ、本当に感謝しきれないよ」



大きなテーブルを挟み、向かいの席でそう言っているのは昨日出会った彼(ご両親の言葉から察するに男の子だったみたい)のご両親。


普段は全然緊張も人見知りもしない私だが、今はなんだか物凄く心が落ち着かない。


事の始まりはほんの30分前。


学校帰りに公園の前を通ったらいきなり黒い高級車みたいなのが私の傍で停まり、車から出てきた彼に「昨日のお礼をしたい」と言われてやって来たが、この子の家がやばかった。


まずなんか大きい門があって、そこからどでかい庭に、池やら銅像があり、しかも絵本でよく見る貴族のお城みたいな家。


家の中にもなんだか高そうな壺や絵があったり、しかも出されるお菓子は色んな種類のケーキやクッキー。


私、もしかして今夢でも見てる?とか思って机の下で自分の手の皮膚をちょっとつねってみたら痛かったから夢ではないみたい。



「あさひちゃんは今何歳なのかしら?」


「9歳です。4月に小学4年生になりました」


「あら、じゃあ夜琉と同い年ね」


「まだ小さいのに悪い大人に立ち向かっていくその勇気、本当に素晴らしい!」


よく本で出てくるお金持ちの人は意地悪だけど、夜琉君のご両親はなんだか良い人そうだ。


「あさひちゃん、何か欲しいものとかない?」


「欲しいもの?」


「ええ。この子を助けてくれたお礼をあげたいの。遠慮しないで何でも言って」


優しくそう微笑む夜琉くんのお母さん。


「欲しいもの・・・」


ゲーム、可愛い洋服、美味しいお菓子、犬…。


頭の中には、いっぱい欲しいものが浮かんでくる。


どれか一つに絞るのは難しい。


そうだ!物じゃなくてお金って言えばほしいもの全部買えるんじゃ・・・!


でもそうなると金額も言わないとだよね。こういうお礼の場合ってどのくらい貰うのが普通なんだろう・・・。


というかこういう時にお金って言うのはちょっと違うよね。


・・・・・・・。


あ、そうだ!


「あの、欲しいものなんですけど・・・」


「うん、なあに?」


「私、夜琉くんがほしいです!!」


「「「「「………………」」」」」


さっきまで和気あいあいとした空気だったのが、一瞬で静まり返った。


チラッと夜琉くんをみると、ポカーンとした表情がこれまた可愛くてキュンってなった。


夜琉くんのお父さんは、「ははは!そうきたか!」と豪快に笑って、「それは、夜琉と結婚したいってことかな?」と聞いてきた。


「はい!私、夜琉くんと結婚したいです!」


そうはっきり言った私に優しく微笑みながら、


「そうか、あさひちゃんは夜琉が好きなんだね」と、大人たちの間には穏やかな雰囲気が流れる。


いや、別に好きとかじゃなく、ただこの家の家族になれば欲しいもの何でも手に入りそうって思って言っただけなんだけど。


という本音は心の中だけでしまっておき、


「はい、一目惚れしました!」


と、10歳ながらにして空気を察した私は、それっぽいことを言っておく。


「まあ一目惚れだなんて!なんだか運命的ね!」


「夜琉、なかなかやるじゃないか」


ダメもとで言ってみたけどもしかして本当にいけちゃうんじゃ――


「でもお父さま、お母さま、僕には許嫁の方がいます」


……え、婚約者?


夜琉くんの言葉に、ご両親も「あら、そういえばそうだったわね…」「たしかになぁ」と思い出したご様子。


ええええ!あともう一押しってとこだったのに!


まあ、これだけお金持ちの家なら小さいころから婚約者がいてもおかしくないよね……。


さようなら私の夢の楽園生活。


「で、でも!許嫁って言っても別に今それを取り消しても遅くないんじゃないかしら」


落ち込む私をみかねたのか、そう言うった夜琉くんのお母さんの言葉に、「お前はどちらと将来結婚したい?」と今度はお父さんから夜琉くんに尋ねる。


「僕は……羽野さんとは昨日会ったばかりですし、許嫁の方とも一度お会いしたきりなのでなんとも……」


「それもそうだな。さて、どうしたものか」


やっぱりさすがに無理なお願いだった。おもちゃ買ってくださいとか現実的なお願いをするべきだった、と悔やむ。


すると、しばらく考え込んでいた夜琉くんのお父さんが口を開いた。


「よし、じゃあこうしよう。どちらと結婚するかは、夜琉が高校を卒業する時に決めてもらう。それまでにあさひちゃんは夜琉にどんどんアタックしなさい。もちろん、途中であさひちゃんが他の子を好きになっても僕達は何も言わない。」


え、いいの!?


「ただね、夜琉は将来この家を仕事を継ぐ子だ。だから、お嫁さんになるならそれ相応の覚悟と教養も備えてなければならない。分かるかい?」


それってつまり、お姫様みたいに、綺麗で礼儀が良くて頭の良い女の子になれってことだよね?


「……はい。私、夜琉くんにふさわしい女性になれるように勉強もなんでも頑張ります!!」


「うん。いい返事だ。夜琉はそれでいいかい?」


「はい。お父様」


「夜琉くん、私、夜琉くんに選んでもらえるような素敵な女性になるからね!よろしくね!」


「はい。よろしくお願いします」


こうして、私の夜琉くんへのアプローチが始まった。

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