晴人と好き?
あの日から、どうしても
教室へと入り、凍ノ瀬の後ろへと座る。気になるのならいっそ、本人に聞いてしまった方がいいのだろうか。
「凍ノ……」
「凍ノ瀬さん、おはようございます。」
「伊雲くん、おはよう。」
自分とほぼ同時に伊雲が話しかけたため、思わず顔を背けた。が、背けたところで話は聞こえてくるわけで。
「あの、これお礼です。ぜひご家族で召し上がってください。」
「わ、いいの?」
「はい!この前は本当に楽しくて嬉しかったので、どうしても何かお礼がしたいと思いまして……!」
「……じゃあ受け取らせてもらおうかな。ありがとう。」
「はい!」
二人の会話から、やはりこの前のは見間違いではなかったのだと実感する。
……二人は付き合っているのか、それは本人に聞いてみればすむことだ。けれど、聞いてしまったらもう、戻れないような気がして……。
やるせない思いを抱えたまま、結局放課後になっても本人に聞くことはできなかった。
――――――――――――――――
「
「え?」
下校途中に声をかけられ咄嗟に振り向くと、そこには伊雲の姿があった。普段伊雲の方から話しかけてくることは滅多にないため、思わず動揺してしまう。
「い、伊雲、どうしたんだ?」
「あ、すみません、灯野君がなんだか落ち込んでいるように見えたので、思わず声をかけてしまいました。」
「……落ち込んでる?」
「はい。いつもの灯野君はもっと前を見てスタスタと歩いているんですけど、今日はなんだか俯き気味でペースも遅くなってトボトボという感じで……。」
本気で心配していると言わんばかりの顔をしながら、俺の歩き方の違いについて話してくる伊雲の姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ど、どうしたんですか……はっ、もしかして僕、気持ち悪かったですかね……!?」
「いや、そんなことねぇよ。ただ、そんなに俺のこと見てんだなと思ってさ。」
「あ、えっと、帰り道が途中まで同じで、大体僕は灯野くんの後ろの方にいるので目に入ってしまって……。」
「あー、悪い。全然気づいてなかった……。」
「いえいえ!ほんとに後ろを歩いてただけなので、気づかなくて当然です!それよりも、灯野君があんなに落ち込んで歩いている姿は見たことがなかったので、どうしたんだろうって気になっていて……。なにかあったんですか……?」
「あ……。」
伊雲と話していると、俺のことを心から心配してくれていることが分かる。相手の様子がいつもと違うことに気づいたら、例えそれが普段話さないやつだったとしても声をかける。そんなこと、簡単にできることじゃない。
(伊雲は、いいやつなんだな……。)
凍ノ瀬が選んだのが伊雲なら…………俺も、納得がいくかもしれない。
「あー、じゃあ一つ聞いてもいいか?」
「はい?」
「その……伊雲って、凍ノ瀬と付き合ってる……のか……?」
「……はい?」
「この前、凍ノ瀬の家の前で伊雲が凍ノ瀬に抱き着いてるのをたまたま見てさ、どうなのかなって。」
「ち、違います!いえ、抱き着いたのは本当なんですが、断じてお付き合いはしていません……!」
「そうなのか?」
「はい!えっと、灯野君は凍ノ瀬さんのお父様がどんなお仕事をされているか知ってますか?」
「ああ、作家だろ?」
「はい。そして、僕は先生の大ファンなんです!なので、あの日会いに行ったのは凍ノ瀬さんのお父様で、抱き着いてしまったのは、先生のサインを凍ノ瀬さんがもらってきてくれたからなんです。」
「は……。」
「ですから、僕と凍ノ瀬さんは付き合っていませんし、僕は凍ノ瀬さんへの恋愛感情も持っていません。」
「そう、だったのか……。」
伊雲が嘘をついているようにも見えず、なぜだか安心する。二人は付き合ってなかったんだな……。
「……もしかして、このことを気にして落ち込んでいたんですか?」
「えっ?」
「もしかして、灯野君は凍ノ瀬さんのことが好き……なんでしょうか?」
「…………は……?」
「だとしたら、とても不快な思いをさせてしまいましたよね。ごめんなさい!」
「い、いや、ちょっと待て。お、俺が凍ノ瀬を好き……?」
「あれ、違うんですか?」
「……分かんねぇ。」
「そうでしたか……。でも、やっぱりあんなに落ち込んでいる灯野君は初めて見ましたし、あれは凍ノ瀬さんが自分以外の人間と付き合っているのがショックだったんじゃないでしょうか?」
「ショック……。」
確かに、凍ノ瀬が伊雲と付き合ってるのかもって思った時は、ショックに似たような思いがあった。
でもそれって、凍ノ瀬を好きなことになるのか……?友達なのに知らなかったことに、ショックを受けただけなんじゃないのか……?
「……僕も恋のことはよく分かりませんが、自覚するなら早い方がいいかもしれませんね。うかうかしてると、他の誰かに取られちゃうかもしれませんし。」
「……。」
他の、誰かに。
それは……なんか嫌な気がする。
「……それでは、僕はこちらなのでこれで失礼しますね。灯野くんのこと、応援してますね!」
「あ、ああ、ありがとな……。」
伊雲が去った後も、しばらくその場所から動くことができなかった。
自覚……か……。
……そりゃ、好きか嫌いかと言われたら好きだと思う。気も合うし、一緒にいると落ち着くし。
でもそれが、友達としてなのか、それとも恋愛としてなのかと聞かれると、正直良く分からない。
けど……。
『うかうかしてると、他の誰かに取られちゃうかもしれませんし。』
伊雲の言葉が頭の中で
早く答えを出さなきゃいけないような気がして、焦りが
俺は、凍ノ瀬のことが好きなんだろうか?
水季と晴人 水晴 季 @miharu_sue
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