11. 晴人と好き?

晴人と好き?

はるくん、走りに行くの?」

いつものランニングの準備をしていたら、姉の小春こはるが声をかけてきた。


「ああ、行くけど。」

「じゃあさ、もしよかったら泉澄いずみにこのノートを届けてもらってもいいかな?」

「泉澄姉ちゃんに?」

「うん。さっきまで泉澄が遊びに来てたでしょ?でも、帰るときにこれを忘れちゃって。授業で使うと思うから早めに返してあげたいの。」

「分かった、ついでに届けてくる。」

「ありがとう、気をつけてね。」

「おう。」

俺はノートを受け取り、家を出た。


泉澄姉ちゃん……凍ノ瀬いのせ 泉澄いずみは、姉の小さい頃からの友達だ。そして、苗字からもわかる通り、凍ノ瀬いのせの姉貴でもあるわけで。泉澄姉ちゃんの忘れ物を届けに行くということは、凍ノ瀬の家に向かうということになる。


謎の緊張感と高揚感を胸に走り始める。凍ノ瀬は今日、家にいるのだろうか。会うことはできるのだろうか。


……なんで、こんなに会いたいなんて思うんだ?



――――――――――――――――



しばらく走り続けると、目的地である凍ノ瀬の家の近くに着いた。

上がった息を整え角を曲がろうとした、その時だった。



『ありがとうございますーーー!!!』



誰かの声が聞こえ、踏み出そうとした足が止まる。


何事かと思い、角から隠れて声の主を探した。




目に飛び込んできたのは、伊雲が凍ノ瀬に抱き着いている光景。





(…………なんだ、これ……。)


今まで体験したことのない胸のざわめきに、思わず後ずさる。


「あれ、晴人はるひとくん、どうしたの?」

「!」

気が付くと俺の背後には、凍ノ瀬の母・凍ノ瀬いのせ 雨音あまねがいた。


「あ、えっとこれ、泉澄姉ちゃんの忘れ物を届けに来て、」

「泉澄の?わざわざありがとう。水季呼んでこようか?」

「いや、大丈夫っす。それじゃあ。」


早くその場から離れたくて、思わず逃げ出すように帰ってしまった。




凍ノ瀬と伊雲が抱き合っていた。……嬉しそうに。


凍ノ瀬は積極的に男子と関わるタイプではないため、他の男子と話しているところはあまり見ない。仲が良い男子として挙げられるのも、いとこの蒼くらいだろう。



……そう、思っていた。


伊雲とあんなに仲が良いなんて、思ってもみなかった。……付き合ってるやつがいるなんて、考えてもみなかった。



さっきの光景が、頭から離れない。

考える度に、胸が痛くて仕方がない。



「…………っ、なんなんだよ、これはっ……‼」




痛いくらいに締め付けてくる、未知なる感情。

この感情の正体には、まだ気づけそうになかった。

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