想と願い

あれから数日が経ち、約束の土曜日がやってきた。


『ピンポーン』

家のチャイムが鳴ったのに気づき、私は玄関へと向かった。


「いらっしゃい、伊雲いくもくん。」

「こ、こんにちは。」

「とりあえず上がって。中でお父さんが待ってるから。」

「はい……!」


見たところ、伊雲くんはだいぶ緊張しているようだった。ずっと会いたかった人に会えるんだもん、そりゃ緊張するよね。


「お父さん、伊雲くん来たよ。」

「いらっしゃい、よく来てくれたね。」

「こっ、こんにちはっ!あの、僕、伊雲いくも そうって言います!えっと、ずっと前から先生の作品が大好きで……!」

水季みずきから話は聞いているよ。僕の作品を好きになってくれてありがとう。」

「は、はい。」

「はは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。まずはリラックスしてみようか。」

「はい……!」


この様子なら大丈夫かな、そう思って私は部屋を後にした。

2人がどんな話をするのか気になったけど、憧れの人と会えた喜びの時間を邪魔したくはなかった。


伊雲くんにとって良い時間になることを願うばかりだ。


――――――――――――――――


「水季、想くんが帰るそうだよー。」

やがて時間が経ち、1階から私を呼ぶお父さんの声がした。それまで読んでいた本を閉じ、1階へと向かう。


「もう話は終わったの?」

「うん。たくさんそうくんと話すことができて楽しかったよ。またいつでもおいで。」

「はい……!あの、今日は本当にありがとうございました。これからも応援してます!」

「ありがとう、気を付けて帰ってね。」

「じゃあ、私見送って来るね。行こう、伊雲くん。」

「はい!」

お父さんの部屋を出て、私たちは外へと出た。


「お父さんとはちゃんと話せた?」

「はい!ずっと伝えたかったことを伝えられて、聞いてみたかったことを聞くことができて、本当に夢のような時間でした……!」

「そっか、それならよかったよ。」

「改めて、凍ノ瀬さんにもお礼を言わせてください。凍ノ瀬さんがいてくれたおかげで僕の夢が叶いました。本当にありがとうございました!」

「こちらこそ、お父さんのお願いも聞いてくれてありがとね。……あ、そうだ。ごめん、ちょっと待っててくれる?」

「?、はい。」

帰りに伊雲くんに渡そうと考えていたものがあることを思い出し、急いで自室に取りに戻った。


「お待たせ。はい、これ。」

「これは……?」

「お父さんのサインだよ。伊雲くん頼みにくいかなと思って、昨日もらっておいたんだ。」

「……。」

「……。」

「……あ……。」

「?」

「ありがとうございますーーー!!!」

「わぁ⁉」

感極まった伊雲くんが、突然抱きついてきた。

「本当に、本当に嬉しいです……!ありがとうございます、凍ノ瀬さん……!」

「……うん。」

「……って、うわぁ⁉すみません、僕、嬉しくて、つい抱き着い……!」

「ううん、大丈夫。むしろそんなに喜んでもらえるなら、頼んだかいがあったよ。」

「本当にすみません……。宝物にしますね、清瀬先生にもよろしくお伝えください。」

「うん、伝えとくよ。」

「それでは、僕はこれで。今日は本当にありがとうございました!」


嬉しそうに帰る伊雲くんを見送り終えた後、私は家に戻った。



今日は、伊雲くんが喜んでくれてよかったな。

あと、あれだけの人を喜ばすことができるお父さんって、やっぱりすごいんだなぁ……。


私は今回手伝いをしただけだったけど、伊雲くんが喜ぶ姿を見てなんだか私まで胸が温かくなった。


いつか私も、あん風に人を喜ばせることができるようになるのかな?

自分の力で人を笑顔にするって、どんな感じなんだろう?



まだ私には、自分一人の力で誰かを笑顔にするなんてできないけど、

……いつかは、私もお父さんみたいになれたらいいな。

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