想と願い

別日の図書当番の日、私と伊雲いくもくんは仕事を終えて帰宅していた。

「それでは、僕はこっちなので。お疲れ様でした。」

「あ、待って、伊雲くん。」

「はい?」

「あのさ、この前の清瀬きよせいつき先生のことなんだけど……。」

「ああ、新作のお話ですよね。急な発表だったので、僕もびっくりしてます。」

「あ、うん。それもそうなんだけど……。」


伊雲くんがものすごく新作の話をしたそうで、思わず笑ってしまう。でも、今はその話じゃなくて。


「えっと、この前、清瀬先生に会ってみたいって言ってたよね。」

「はい、そうですけど……。」

「じゃあ、会ってみる?」

「え?」

「『清瀬いつき』って、私のお父さんなんだよね。」

「……えっ。」

「この名前はペンネームで、本名は『凍ノ瀬いのせ 史雪ふみゆき』なんだ。お父さんにはこの前事情を話してちゃんと許可も取ってきたし、今週の土曜日なら会えるらしくてさ。」

「……。」

「それで、伊雲くんさえ良ければ会いにこないかなって。」

「……清瀬先生が……凍ノ瀬いのせさんのお父さん……。」

「……えっと……伊雲くん……?」

「……ということは、凍ノ瀬さんは清瀬先生の娘さん……ということですか……!?」

「う、うん。そうなるね……。」

「こ、これはすごいことです!前から凍ノ瀬さんは聡明なお方だと思っていましたが、まさか清瀬先生のご令嬢だったとは……!納得です!」

「ご、ご令嬢……?」

「あ、すみません、凍ノ瀬さんが許可を取ってきてくださった話でしたね。本当に、とっても嬉しいです!……でも、現実のイベントに参加しない清瀬先生に、僕なんかが会ってもいいんでしょうか……?」

「うん、それは大丈夫だよ。イベントに参加しないのは、お父さんが大勢の人と会うのが苦手だからで、前からファンの人に会ってみたいって言ってたから。」

「そうだったんですね……。あの、それじゃあ、お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか……?」

「もちろん。今度の土曜日でいいかな?」

「はい、よろしくお願いします!」


普段は落ち着いてる伊雲くんが、あんなに取り乱して喜ぶ姿は初めて見た。誰かの願いを叶える手伝いをすることなんて滅多にないから、なんだか私までそわそわしてしまう。



今週の土曜日、上手くいくといいな。

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