10. 想と願い

想と願い

(あ、雨降りそう……。)

灰色の雲が空を覆い、今にも雨が降ってきそうな空を窓越しに見る。

今は図書委員の仕事の一環として、カウンターに座って利用者が来るのを待っているところ。隣では、同じく図書委員の伊雲いくも そうくんが本を読んでいる。


(あ……。)


伊雲くんの読んでいる本の表紙が目に入る。

「伊雲くん、その本好きなの?」

「あ、はい。僕、この作家さんが書かれるお話がすごく好きなんです。」

「そうなんだ。面白いよね、その作家さんの本。」

そういうと、伊雲くんの顔がぱぁっと明るくなった。


「やはり、凍ノ瀬いのせさんもこの方を知っていましたか……!」

「ふふ、うん。他の本も読んでたりするの?」

「はい、全部読んでます。」

「ぜ、全部!? 本当に好きなんだね……!」

「はい、清瀬きよせいつき先生の書かれる文章はすごく繊細で、読んでいるとなんだか胸が締め付けられるような感じになって……。こんな素敵なお話を書かれる方は、きっと素敵な方なんだろうなって思ってます。」

「会ったことはないの?」

「……残念ながら、この方は表に顔を出すようなイベントには参加しないので、まだ実際に会ったことはないんです。それでも、いつか会ってお話してみたいなって思ってて……。叶わない願いなんですけど。」

「そっか……。その願い、叶うといいね。」

「はい、ありがとうございます。その時は、凍ノ瀬さんも一緒に会えるといいですね。」

「ふふ、そうだね。」



伊雲くんが、あの本の作者をあんなに好きだったなんて知らなかったな。


『清瀬 いつき』。

これは、作家である私のお父さん・凍ノ瀬いのせ 史雪ふみゆきのペンネームだ。


確かに、お父さんは現実のイベントには参加しない。でもそれは、多くの人と話すのが苦手だからであって、前に生のファンの声を聞いてみたいと言っているのを聞いたことがあった。


もしかしたら、頼めば伊雲くんに会ってくれるかもしれない。

帰ったらお父さんに聞いてみよう。もし会えるって聞いたら、伊雲くん喜んでくれるかな?そう考えると、なんだか少しワクワクしてきた気がする。



伊雲くんの願い、叶うといいな。

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