旅の終わりとお守り
修学旅行が終わり、俺たちはいつもの日常へと戻った。
非日常から日常へと戻る感覚は、つまらないような、でも安心するような複雑な感じがする。
「おはよう
「はよ。」
「この前まで僕たち京都にいたのに、今日から学校が始まるなんてなんだか変な感じだね。」
「そうだな。」
『えー⁉先輩にお守り渡したの⁉』
『ちょ、声でかいって!』
「わ、あの子、告白でもしたのかな……!」
「告白?なんで分かるんだ?」
「だって、お守り渡すってことは、告白と同じことだからね……!」
「……は?」
「あれ、もしかして知らない?『修学旅行中、好きな人にお守りを渡すと恋が叶う』っていうジンクス。」
「えっ、」
「おはよう……って晴人、なんか顔色悪くないか?」
「あ、
あとから登校してきた蒼に説明する楓の声は、さきほどの衝撃で全く耳に入ってこなかった。
まずい、これはまずい。
お守りを渡すことが、告白と同じだって?
俺、
「ああ、ジンクスの話か。結構有名な話だけど、晴人は知らなかったんだな。」
「……。」
「……お前まさか、知らずに誰かに渡したりしてないよな?」
「ま、まさか、そんなわけ……。」
『おはよう。』
『水季、おはよう。』
近くで凍ノ瀬の声がして、俺は一気に体が
「晴くん?」
「ああ、いや大丈夫だ。」
「そうか?ならいいけど、なんかあったら言えよ。」
「ああ。」
その後、楓と蒼が自分の席に戻るのと同時に、凍ノ瀬が俺の前の席へとやってくる。
「おはよう。」
「お、おう……。」
凍ノ瀬は挨拶を済ませ、普段通りの様子で席についた。
ジンクスを知らなかったとはいえ、俺は凍ノ瀬にお守りを渡した。
これはもしかしなくても、俺は凍ノ瀬に告白したことになるんじゃねぇか……!?
どうする、凍ノ瀬に言ってお守りを返してもらうか……?
いや、でもさすがに一回あげたものを返してもらうのはどうかと思うし、凍ノ瀬も喜んでたしな……。
……ん?喜んでた……?
凍ノ瀬は、本当の意味知ってて喜んだのか……?
それだと、俺の告白(?)はOKされたことになるのか……⁇
いや、知らずに俺が渡した意味で喜んだ可能性だって……。
あーー、わっかんねぇ……‼
「灯野、帰らないの?」
「えっ、」
気が付くと、帰りのホームルームはいつの間にか終わっていた。
「大丈夫?なんか難しい顔してたけど……。」
「いや、なんでもねぇよ。」
「そう?ならいいけど……。そうだ、これ。」
そう言って凍ノ瀬はお守りを差し出してきた。
「この前のお返し。」
「……お、お返しって、お前……!」
「修学旅行の時、もっと仲良くなりたいって言ってくれたでしょ?あれ、すごく嬉しかったから、私もちゃんとお返しがしたいと思って。」
「あ、ああ……。」
凍ノ瀬は、本当の意味を知っているのだろうか。
そして俺はこのお守りを、どんな意味で受け取れば良いのだろうか。
「……もしかして灯野、お守りを渡す本当の意味が分かったの?」
「!」
「やっぱり。だからそんな顔してるんだ。……でも、私に渡した時は知らなかったんでしょ?心配しなくても、私はあの時灯野が言った意味でしか受け取ってないから大丈夫だよ。」
「……そう、か……。」
「それに、私のお守りにも深い意味はないからね。灯野が渡した時と同じ意味で受け取ってよ。」
「ああ……。」
「それじゃ、また明日。」
「おう、また、明日……。」
凍ノ瀬が帰った後も、俺はしばらく席を立つことができなかった。
凍ノ瀬は本当の意味を知っていた上で、俺の言った意味でしか受け取らなかったのか。告白と同じ意味を持つものを受け取っても、なんとも思わなかったのか。
……いや、別に告白したわけじゃないからそれで良いけど。良いんだけど……。
(もうちょっと、意識してくれても良いんじゃねえの?)
誰もいない教室に、俺の心の声だけが落とされる。
なんか……どうしようもなく悔しくて、悲しい感じがする。
なんでそう思うのかは、分かんねぇけど。
自分の感情が分からないまま、俺は席を立ち教室を出た。
帰ったらすぐに走りに出よう。そうすれば、この心のもやを晴らすことができるかもしれない。
今まで感じたことのないこの感情の正体に、俺はまだ気づくことができそうになかった。
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