痛みと本音

2日目の日程を終え、俺たちは昨日と同じホテルへと帰った。

夕食会場へと向かう途中、俺は部屋に忘れ物を取りに戻っていた。


「おーい、あおい~。」

湊斗みなと。」

「夕食会場、行かないのか?」

「忘れ物。湊斗は?」

「俺もそんなとこ。一緒にいこうよ。」

「ああ。」


「そうだ、お守り余ってんだけど、一ついらない?」

「お守りって……それ、ジンクスあるやつだろ。」

「そうそう、あの『好きな人に渡したら恋が叶う』ってやつね。」

「……湊斗は俺が好きなのか?」

「まさか、これはおすそ分けだよ。蒼が好きな人に渡す用にできないかな~って。」

「……渡さないよ。」

「なんで?」

「……俺の想いが実ることなんて、絶対にありえないことだからだよ。」

「実るかどうか、本人に確認したことはあるのか?」

「それは、ないけど……。」

「確認もせずに相手の気持ち決めつけて、何もしないで諦めるのもどうかと思うけどね。」

「っ……。」

「蒼はずっと自分の気持ち抑えて我慢してんだ。渡すくらい、許されてもいいんじゃねぇの?」

「……。」

「ジンクスのことは抜きにして、ただ友達にこれを渡すだけってことにしてもいい。それなら、何も不自然なことはないだろ?」

湊斗はそう言って、俺の方へと再度お守りを差し出した。


「ま、渡さなかったら蒼が持ってていいから、受け取るだけ受け取ってよ。」

渡されたそれを、俺は跳ね返すことができなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、夕食と入浴を終え、旅館最後の自由時間となった。


自分の中だけでは抱えきれないほど、たくさんのことが起こった。少し、頭を整理する時間が欲しいと思った。


「俺、ちょっと散歩に行ってくるよ。」

「散歩?」

「ああ。ちょっと歩きたい気分で。」

「ふーん、ま、気が済むまで歩いてこいよ。」

「うん、それじゃ。」

二人に背を向け、ドアの方へと歩き出したその時、


「あ、待って蒼!その、僕も行ってもいい?」


「えっ?」


まさかかえでからそう言われるとは思っておらず、一気に心臓の音が早くなった気がした。


「えっと、もうすぐ旅行も終わっちゃうんだって思うと、なんだか寂しくて。せっかくだし、僕も歩きたいなって……。」

「いいよ。晴人はるひとはどうする?」

「あー、俺はいいや。後で湊斗たちも来るだろうし、2人で行って来いよ。」

「分かった。」

さっきまであった一人で歩きたい気持ちは、楓と一緒にいられる嬉しさには勝てなかった。


「ほんと、景色が綺麗な旅館だな。」

「うん、修学旅行で泊まるホテルにこんな庭園があるなんて、びっくりだよね。」


しばらく2人で、修学旅行中に起こったことについて話しながら歩いた。……やっぱり、楓と話すのは楽しい。



話しながら、さっきの湊斗との会話を思い出す。


勝手に決めつけるも何も、楓が藤宮さんを好きなのは紛れもない事実だ。こんなものを渡したって、楓の負担にしかならない。


…………でも、もし許されるのなら。俺だって本当は、楓に…………。


ポケットに入れたお守りに、手を伸ばす。


本当は、これを渡すべきじゃないっていうのは、分かってる。

分かってるけど……。



「……楓、これあげるよ。」

「これって……あ、あのジンクスがあるお守り、だよね……!?」

「うん、なんか湊斗が余ったから誰かに渡す用にとか言って押し付けてきたんだけど、俺特に渡す相手いないからさ。代わりに楓が持っててよ。」

「お守りが余ることなんてあるんだ……。でも、僕がもらっちゃってもいいの?」

「うん、ついでに楓が幸せになれるように願いこめといたから。」

「そんなことしてくれたの?……じゃあもらっちゃおうかな。ありがとう、大切にするね!」

「……うん、そうしてくれると嬉しい。」



ちゃんと分かってる。


けど、これぐらいは許してほしい。




本当のことは、言わないから。

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