8. 痛みと本音
痛みと本音
「
「ん?」
土産屋で商品を見ていた時、なにやら気になるものを見つけたらしい
「楓柄の手ぬぐいとお箸!」
「あ、楓の葉の絵が描いてあるな。」
「うん!……あ、キーホルダーもある!」
「ほんとだ。楓、なんか嬉しそうだな。」
「へへ、うん。自分の名前と関係してるものを見つけた時って、なんだか嬉しくなっちゃうんだよね。」
「ま、その気持ちは分かるな。買うのか?」
「うーん、どうしようかな……。見つけた嬉しさはあるけど、欲しいのかって言われるとちょっと違うかも。」
「はは、まあそうだよな。」
そう言いつつ、俺は目の前にあった箸をカゴの中に入れた。
「え、蒼、それ買うの⁉」
「ん?うん。ちょうどそろそろ買い替えようと思ってたんだよね。」
「そうなんだ……。その、楓柄でいいの?」
「うん。俺はこれがいい。」
「そっか。」
楓は少し恥ずかしそうに笑った。
楓が嬉しそうに紹介するものだから、ついカゴの中に入れてしまった。こんなもの買ったところで意味はないって分かってるけど、楓を笑顔にしたこれを持っておきたいと思ってしまった。
……楓に、怪しまれたりしてないよな……?
「僕、そろそろお会計してこようかな。」
「うん、俺も行くよ。」
「じゃあ一緒に……ねぇ蒼、あれ見て!」
「?」
楓が指し示す方に視線を向けると、そこには2人の男性旅行客に話しかけられている
「なんか様子が変だね。」
「だよね、行ってみよう!」
「うん。」
俺たちは、藤宮さんの元へ向かうことにした。
「きゃっ‼」
「すみません、大丈夫ですか……!」
急いでいたため、俺は店内にいた女性にぶつかってしまった。
「あ、はい、大丈夫です……って、お兄さん、すごくかっこいい……!」
「え、」
「あ、その制服、学生さんなんですね!」
「いや、その、」
「私も学生なんですよー!良かったら、連絡先交換しません!?」
「いえ、今はそれどころじゃ……。」
「えー、いいじゃないですか!あ、もしかして、彼女がいるとか⁉」
「いません、失礼します!」
なんとかその女性を振り切り楓の元へとたどり着いた時には、藤宮さんに話しかけていた旅行客はもういなかった。
「ごめん楓、大丈夫だったか?」
「うん、ちょっと怖かったけど、修学旅行中なんですって話したら納得して帰ってくれたよ。」
「そっか、藤宮さんは大丈夫?」
「ええ。
「いえいえ!僕はただ、話をしただけで……!」
藤宮さんにお礼を言われ、楓は心底嬉しそうな表情を見せた。
普段は怖がりなのに、その人を助けるためならどんな怖いことにも立ち向かうことができる。やっぱり、楓の人を想う力はすごい。……そう思う度に、実感させられる。
……それだけ、藤宮さんのことが好きなんだな……。
ただその事実だけが、俺の心を
楓はきっと、俺が楓のことを好きだなんて夢にも思わないんだろうな。俺が楓柄の物を買っても、怪しむことなんてあるはずがないよな。
楓が幸せならそれでいい……そう、思いたいはずなのに。言うことを聞かない心は、沈んでいくばかりで。
応援したいのに、どうして素直にそう思えないんだろう。俺のこの想いが報われることはないって、分かってるはずなのに。
楓が好きなのは、俺じゃない。
ただ、それだけのことなのに……。
どうしてこんなに、胸が痛くなるんだ。
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