7. 意味とおそろい

意味とおそろい

(えっと、水は……これだ。)

自販機にて水を購入し、部屋に戻ろうと来た道を歩き始める。


(……ん?あれは……。)

中庭のベンチに座っている見知った姿に、声をかけずにはいられなかった。


灯野ひの。」

「おぉ、凍ノ瀬いのせ。水買いに来たのか?」

「うん。灯野は何してたの?」

「ああ、ちょっと星見てた。」

「星?」

「上、見てみろよ。」

灯野に促されるまま、空を見上げてみる。


すると、そこには視界に入りきらないくらいの星空が広がっていた。

「わぁ、きれい……!」

「な。凍ノ瀬も座るか?」

「あ……うん、そうしようかな。」

ベンチに座り、ただひたすら夜空の美しさに見惚れた。

自分の家からでは、なかなかこんなにきれいな星空を見ることはできない。


「明日はいよいよ京都だな。」

「だね、みんなと見てまわるの楽しみだな。」

「ああ。……あ、そうだ。」

「?」

「これ、凍ノ瀬にやるよ。」

そう言って灯野が差し出したのは、一つのお守りだった。


なんの変哲もない、ただのお守り。

でも、それを渡すことが何を意味するのか、私はもう知ってしまっているわけで。


「……え?」

湊斗みなとが余ってるって言うから、もらったんだ。」

「それを、どうして私に……。」

「凍ノ瀬に渡したいと思って。」


……。



凍ノ瀬に、渡したいと思って……!?



えっ、ど、どういうこと……!?


えっと、光梨ひかりは確か……。

『そのお守りを好きな人に渡すと、恋が叶うって噂らしいよ……!』

って言ってた、よね?


ってことは、灯野は私のことが……!?


「えっ、と……。」


急なことで、次の言葉が出てこない。

何か、言わなきゃいけなのに。



「……って、急に渡されても困るよな。」

「……。」

「湊斗から聞いたんだ。『修学旅行中に買ったお守りを仲良くなりたい女子に渡すと、もっと仲良くなれるっていうジンクスがある』って。……だから、凍ノ瀬に渡そうかなって、思ったんだけど……。」

「えっ。」


仲良く……なりたい女子……?

本当の意味とは、少し違う……?


……もしかして、新名にいなくんが灯野をからかって嘘を教えた、とか?それで、灯野はお守りを渡す意味を勘違いしてる……ってこと?


なんだ、そういうことか……び、びっくりした……。でも、本当の意味とは違っても、私ともっと仲良くなりたいと思ってお守りをくれようとしたんだ……。



それは、すごく嬉しいな。



「……受け取っても、いい?」

「お、おう。」

「ありがとう。大切にするね。」

「……おう。」


まさか、この旅行中にお守りをもらうことになるなんて思わなかったな。

意味は違ったけど、本当の意味でもらうより嬉しい気がする。


灯野も、私と仲良くなりたいと思ってくれてた。今はそれが、何よりも嬉しくて。


「そろそろ消灯時間だし、戻るか。」

「うん。」


戻る前に、もう一度夜空を見上げる。

空一面に広がる、綺麗な星々。



私はこの景色を、きっと一生忘れないと思う。

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