温泉とハプニング

それから部屋に戻り、着々と寝る準備を終らせていった。

「あ、もう水ねぇや。俺自販機行ってくるけど、なんか欲しい物とかあるか?」

「俺も水買っとこうかな。一緒に行くよ。」

「いや、いいよ。ついでに買ってくる。」

「え、でも」

かえではないか?」

「うん、僕は大丈夫。いってらっしゃい!」

「うーい。」

バタンッ、と音を立てて、晴人はるひとはドアを閉めて出て行った。



……明らかな非常事態だ。



部屋には楓と二人きり。風呂上がりなこともあって、なんだかいつもと違う感じがしてしまう。

「あ、ここお茶が飲めるんだね。蒼もいる?」

「あ、ああ。」

「おっけ~。……わっ!」

「!、危ない!」

楓がカバンにつまづいてよろけたため、咄嗟に支えようと身を乗り出した。が、俺も上手くバランスを取ることはできず、二人して布団の上に転んでしまった。


背中に鈍い痛みを感じながら目を開けると、楓の身体が俺の上に乗っていることが分かった。楓の頭は俺の胸部にあり、痛そうに目をつぶっている。

「楓、大丈夫か⁉」

「うん、なんとか……。あおいは大丈夫?」

「ああ。」

「そっか、布団があって助かったね……!」


至近距離で笑顔になる楓を見て、胸の鼓動が大きくなっていくのが分かった。




……ダメだ、静まれ……。このままでは、楓に気付かれてしまう……。



想いを、なくすんだ……‼




「……蒼?やっぱりどこか痛いところでも……。」


(コンコンコンッ)

ドアの方から音がして、反射的にそちら側に意識を向ける。


『おーい、3人ともー。トランプやろうよ~。』

「あ、新名にいなくんだ、僕たちを呼んでるみたい……。」

「……ああ。そうみたいだな。」

俺たちは立ち上がり、扉を開けた。

「やっほー、消灯時間まで遊ぼう~。……って、2人ともどうした?なんか……はだけてない?」

「え、あ、ほんとだ。」

「はだけるような何かをしたんですかね?」

「ち、違うよ!さっき僕が転んじゃって、蒼が支えてくれたんだ。」

「へぇ……。それは災難……いや、ラッキーだったかな?」

「え?ラッキー?」

湊斗みなとがわざとらしくこちらに視線を向けてくる。


「いや、なんでもないよ。それよりトランプやろうよ。何人か集めたからあっちの部屋でさ。」

「う、うん。」



それからというもの、特に何事もなくそのまま消灯時間がやってきた。楓と晴人はすぐに寝たようだったが、俺はなかなか寝付くことができなかった。




『男同士なんだし、むしろ見れてラッキーくらいに思っとけば?』


『それは災難……いや、ラッキーだったかな?』




さっきの湊斗の言葉が頭の中で反芻される。


俺は……そんな風に考えることはできない。




……楓の幸せにとって、この想いはいらないんだって、分かってる。


でも、楓が近くにいると、どうしても勝手に意識して、胸が高鳴り始めてしまうんだ。






……想いって、どうやってなくせばいいんだろうな。

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