6. 温泉とハプニング

温泉とハプニング

ほとんど移動だった1日目を終え、俺たちは今日泊まる旅館に到着した。夕食を取り終え、各自割り当てられた部屋へと戻っていく。


「はぁ……なんだか今日は疲れたね。」

「そうだな。やっぱ、乗り物に乗ってるだけでも結構疲れんのな。」

部屋に入った途端、かえで晴人はるひとは疲れをあらわにした。かくいう俺は、これから起こるイベントが気がかりで仕方がなかった。


「……さて、ご飯も食べたし、次はお風呂だね。今から行くよね?」



そう、風呂である。



今日一日だけでもだいぶ疲れがたまったため、温泉に入りたい気持ちは山々だ。しかし、風呂だ。気持ちを隠したまま楓と一緒に風呂に入るのは、まずい気がする。


「いや~、俺はいいかな……。」

「え、温泉入らないの⁉」

「うん、部屋にシャワーあるし、それでいいかなって……。」

「行こうぜ。」

「え?」

「明日のためにもちゃんと風呂に入っといた方がいいって。」

「でも……。」

「どうせ風呂場は湯気でなんも見えねぇよ。ほら、行くぞ。」

「そうだよあおい、行こうよ!」

俺は2人の熱量に押され、風呂場へと足を向けてしまった。


脱衣所に到着すると、俺たち以外の生徒も多くいた。とりあえず空いているロッカーを探したところ、運が良いのか悪いのか、3つが横並びで空いていた。


「わ、隣空いてる。よかったぁ。」

楓が安心したと言わんばかりの笑顔をこちらに向け、服を脱ぎ始める。



まずい、これはまずい。



「あ、俺、お手洗いに行ってこようかな……!」

「わかった。じゃあ先に入ってるね。」


俺は足早にその場を立ち去った。




しばらくして脱衣所に戻ると、2人はもう入っているようだった。


「ふぅ……。」

「あれ、奇遇だね、お兄さん。」

「⁉」


安心したのも束の間、後から来た湊斗みなとが俺の隣のロッカーに手をかけていた。


「晴人と楓は一緒じゃないの?」

「あ、ああ。2人なら先に入ってるよ。」

「ふーん。」

「そういう湊斗こそ、ルームメイトはどうしたんだよ。」

「いやぁ、俺んとこも先に行っちゃったんだよね~。ちょうどいいし、一緒に入る?」

「……別にいいけど。」

「やった。じゃあ体洗ったら楓たちと合流しようぜ。」

「それは……。」

「あれ?もしかして、何かやましいことでもあるんですかね?」

「……。」

「ま、なんでもいいけど。……でも、風呂場まで一緒に来たのに中では別行動って、それこそ怪しまれるんじゃないか?」

「……でも……。」

「大丈夫だって。男同士なんだし、むしろ見れてラッキーくらいに思っとけば?」

「ラッ、」

「ほら、早くしないとあの2人上がってきちゃうよ。脱いで脱いで。」

「……はぁ。」


湊斗に促されるまま、俺は脱いだ服をロッカーに閉まった。



いざ風呂場に入ってみると、晴人の言っていた通り湯気であまり周りは見えなかった。


「わ、湯気すご。ちぇ~、これじゃ裸見えないじゃん~。」

「ばっ、何言ってんだ……!」


その後、楓たちとも合流し、俺は無事に入浴を終えた。


……ら良かったのだが、風呂に入ったからには、そこから出ないといけなくなるわけで。



「だいぶあったまったね。そろそろ上がる?」

「いや、俺は……。」

「あー、俺と蒼はもう少し入ってるから、2人は先に上がってなよ。」

「分かった。先行っとくな。」

「あ、ああ。」

楓と晴人は先に風呂場を出ていった。


「……ありがとな。」

「別にー?俺ももう少し入りたかっただけだしね。」

「そうか。」


友人のおかげで、俺は無事に風呂を終えることができた。

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