5. 不安とジンクス

不安とジンクス

5月下旬に控える修学旅行。

2泊3日で、行き先は奈良と京都。1日目は奈良へ行き、2日目からは京都での班行動、3日目は自由行動というスケジュールになっている。

今は班全員でそのための話し合いをしているところだ。


「2日目だけど、みんなはどこに行きたい?」

「俺は金閣寺に行ってみてぇな。」

「私は清水寺がいいな。」

晴人はるひと水季みずきちゃんがさっそく候補地を挙げてくれる。


「うん、その二つならそんなに離れてないし、一日で行けそうだね。他のみんなは?」

「私も清水寺に行ってみたかったから、水季に賛成かな。」

「私もそうね。」

「僕は晴くんに賛成!あおいは?」

「俺は……嵐山かな。景色が綺麗らしいし、前から行ってみたいと思ってたんだ。」

「嵐山、いいわね。」

「うん、僕も行ってみたい!」

「ほんと?じゃあ、ここもルートに加えようか。」

話し合いは着々と進んでいき、2日目の大体の予定表が出来上がった。



「旅館は、この3人で同じ部屋になれるんだっけ?」

「うん、京都の班行動の3人と同じだって、ここに書いてあるよ。」

「あ、ほんとだ。」

そう言って、水季ちゃんが菜月なつきさんに旅のしおりを見せている。


(旅館、か……。)


そう、旅館の部屋割は、京都の班と同じメンバーになっている。

それはつまり……かえでと同じ部屋になるということ。


「僕たちも3人で同じ班なれるってことだよね。良かったぁ、僕、あまり話したことない人とだと緊張して眠れなかったかもしれないから。」

「そうだな。」


……想いを心の中にしまっておくとは言ったが、同じ部屋で寝るとなると話は別だ。

楓は安心して眠れるのかもしれないが、逆に俺は朝まで眠れないかもしれない。


(大丈夫だろうか……。)

考えたってどうしようもない事象に、頭を悩ませる。

俺は2日間、眠ることはできるのだろうか。


「……蒼。」

「ん?」

「なんかあったら、俺に言えよ。」

「……大丈夫だよ。」


晴人にそう言われ、俺は咄嗟に大丈夫だと答えた。

もう、そう言うしかないような気さえしている。


きっと大丈夫。

同じ部屋と言っても、何も一緒の布団で眠るわけではない。

今までだって、上手く隠してこれたのだから。


きっと、大丈夫。




大丈夫……だよな?

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