4. 蒼と嘘

蒼と嘘

俺は、今まで誰も好きになったことがない。


昔から無駄に整っているこの容姿のせいで、名前も知らない女子から告白されることが多かった。一度も話したことがない、言ってしまえば、俺の内面を何も知らない女子から。


そんなふうに告白され続けると、考えてしまう。外見が良ければ、中身なんてどうでもいいのかな?って。


友人の好きな人が俺を好きになった時は、その友人との仲が悪くなってしまう。まるで、俺がすごく悪いことをしたかのような目を向けられて。


そんなことばかり起きると、誰かを好きになるという行為そのものを嫌に感じるようになってしまった。


こんな俺では、きっと恋をすることなんてできない。

そう、考えていた。




高校に入学して、かえでと同じクラスになった。誰に対しても笑顔で接する楓とは、すぐに仲良くなれた。


一緒に過ごすうちに、楓には好きな人がいることが分かった。相手の名前は、藤宮ふじみや 京子きょうこさん。


藤宮さんといるときの楓は、動揺しつつもいつも嬉しそうだった。藤宮さんを純粋に好いていることが分かって、見ているこちらまで穏やか気持ちになってくる。


初めて、誰かを好きになれることを羨ましいと思った。好きな人といてあんなに幸せそうに笑えるのなら、恋もそんなに悪いものじゃないのかもしれないと思えるようになった。


表情が豊かですぐに笑顔になる楓は、俺の目にはとても魅力的に映った。周囲を朗らかに照らす楓を、いつの間にか、自然と目で追うようになった。



……そして、いつしかその気持ちは、羨望から別のものへと変わっていった。



楓には、好きな人がいる。

それに、俺と楓は男同士だ。


想いが実ることはない。

あるはずがないんだ。

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