3. 水季と友達

水季と友達

水季みずき、なに見てるの?」

スマホを見ていた私に話しかけてきたのは、私の友達・菜月なつき 光梨ひかりだった。


「ああ、この前灯野ひのと映画見に行ったから、その写真見てたんだ。」

「え、灯野くんと?」

「うん、なんかチケットが余ってたとかで、一緒に行かないかって誘われて。」

「そうだんたんだ。何の映画見たの?」

「この間一緒に見に行ったやつだよ。」

「あー!あれ面白かったよね~!」

「うん、二回目でもすごく面白かったよ。」

「おはよう、二人で何の話をしているの?」

「あ、京子。」


以前一緒に映画を見に行ったもう一人の友達・藤宮ふじみや 京子きょうこも登校してきたようだ。


「おはよう京子。水季がこの間、灯野くんと映画を見に行ったっていうから、その話をしてたんだ~!」

「へぇ、それはいいわね。どうだったの?」

「楽しかったよ。灯野と出かけるなんて小学生以来だったから、なんだか昔に戻ったみたいだった。」

「そう、それはよかったわね。」

「二人は幼馴染だもんね、そんな相手がいるなんて、ちょっと憧れちゃうなぁ。」

「幼馴染って言っても、学校では全然話してなかったんだけどね。」

「言われてみれば……中学の時は、2人が話してるのあんまり見たことないかも。」

「うん……なんか恥ずかしくて。」

「異性だと、そうなってしまうこともあるわよね。」

「……でもさ、この前遊んでみて、本当に……すごく楽しかったんだ。灯野と色んな話をして、今まで知らなかった灯野のこととかも知れて。これからも、あんな風に灯野と話せたらなって、思ったんだけど……。」

「だけど?」

「……今更もう、遅いのかなって。」



「……全然遅くなんてないと思うよ。」



「え?」


「だって、私たちはまだ生きてるし、これからだって生きていくでしょ?だったら、今から仲良くなることは、全然遅くなんてないんじゃないかな?今まで過ごした時のことだけじゃなくて、これから先の未来を自分がどうしたいかを考えてみるといいのかも。何かを始めることに、遅いなんてことはないと思うよ。」


「……!」



光梨の言葉が、すっと胸に入ってきた。


何かを始めるのに遅いなんてことはない、か……。

じゃあ、灯野との縁を、もう一度大切にしたいと思ってもいいってことなのかな……?また、昔みたいにって思っても、いいのかな……?



……でも、やっぱり、私は……。




「……光梨はすごいわね……。」


「え?」

「私には、そんな風に声をかけることはできないと思うわ。」

「えへへ、そ、そうかな……?でも、どうしてそう思ったの?」

「……例えば、水季と光梨は中学生の頃からの友達でしょ?二人を見ていると、今まで一緒に過ごしてきた時間は大切なものだったんだろうなって思うの。そう考えると、さっき水季が言った『今からではもう遅いんじゃないか』っていう気持ちが出てくるのも分かる気がして……。」

「何言ってるの京子、全然遅くなんてないよ!」

「……ふふ。」

「な、何?」

「友達になら、遅くないよって言えるんだね。」

「……あ。」

「水季の言う通り、友達と仲を深めることに、遅いなんてことはないと思う。遅いと思うなら、その分長く一緒にいたらいいんだよ。そしたら、今まで気になってた年数なんて気にならなくなると思うし。20年経ったら、20年か23年だったかなんて、もうほとんど誤差だよ。」

「誤差……。そうね……ごめんなさい。妬むようなことを言ってしまって……。」

「ううん、むしろ、京子が私たちに対してそう思うくらい、仲良くなりたいと思ってくれてたことが嬉しいよ。」

「うんうん、これからいっぱい思い出作っていこうよ!来月には修学旅行もあるんだし!」

「二人とも……。ありがとう。」



遅くないって、友達になら簡単に言えてしまった。


そうだよね、今からでも全然遅くない。

灯野と仲良くなりたいと思うなら、そのために行動していいんだ。


今まで過ごしてきたことも大事だけど、もっと大切なのは、これから先をどうやって過ごしていくか……だよね。



「私こそありがとう、二人とも。おかげで大事なことに気付けた気がするよ。」

「うん、応援してるよ、水季!」

「ありがと。……まあ、向こうがどう思ってるかは分からないけどね。」

「……大丈夫よ。この前の外出を水季が”楽しい”と感じたなら、きっと相手だって同じように考えているはずよ。」

「……そう、だね。そうだといいな……。」

「うん、きっとそうだよ!……というか、今思ったんだけど、修学旅行ってもう来月なの……!?」

「確かに、もう五月が来るのか。進級したばかりなのに、なんか忙しいね。」

「そうね。今までの友達とクラスが離れてしまっていたら、新しい友達と同じ班になるってことだもの。そう考えると、なかなかハードなイベントだわ。」

「わ~、考えるだけで大変そうだね……。」

「ほんと、二人と同じクラスになれてよかったな。」

「うん、ほんとに!楽しい修学旅行になるといいね!」

「ええ。」「うん。」



来月には、高校生活最初で最後の修学旅行が待ってる。

どんなことが起こるのか、それはまだ分からないけど。


私は、友達との仲を深められる旅行にしたいな。

京子と、光梨と、それから灯野とも。



……もう、今さら遅いなんて言わない。

私は、灯野ともっと仲良くなりたい。


昔みたいに、もっと一緒にいたい。




……灯野も、同じ気持ちだったらいいな。

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