映画ともう一度

昨日の夜、灯野ひのに映画に誘われた。


ちょうどもう一回見たかった映画だったから、何も考えずに行くって言ったけど、灯野と二人で出かけるってことは、これってつまり……?


小さい頃はよく遊んでたけど、高校生ともなると話は別な気がする。……でも、せっかく灯野が誘ってくれたんだし、あまり意識しすぎて楽しめないのはよくないよね。


いつも通り、いつも通りで……。


「あれ水季みずき、今日どっか行くの?」

「うん、灯野と映画に……あ。」


しまった、つい言ってしまった。

私の言葉を聞いた姉・凍ノ瀬いのせ 泉澄いずみは、これでもかというほど口角を上げた。


「え、え!それって、二人でデートするってこと!?」

「デっ……、ち、違う、そんなんじゃないから!」


姉にこれ以上余計なことを言われまいと、慌てて家を出た。ああやって言葉にされると、意識したくなくても勝手に意識してしまう。


(はぁ……今日一日、大丈夫かな……?)




灯野との待ち合わせ場所についたのは、30分も前だった。


(お姉ちゃんのせいで早く着きすぎちゃった……。)


「早いな、凍ノ瀬いのせ。」

「わ、びっくりした……。そういう灯野こそ、早くない?まだ30分も前……。」

「ああなんか、楽しみで早く家出ちまったんだよな。」

「た、楽しみで……。」


そんなに直球で言われると、何も言えなくなる。私と出かけるの、そんなに楽しみにしてくれてたんだ……。


時間は少し早かったけど、私たちは映画館へと足を向けた。




映画館に到着した後、各々飲み物などを購入し指定された席につく。


分かってはいたけど、席は隣。

姉の言葉のせいか、なんだか緊張してきた。


(こんな状態で映画に集中できるのかな……。)


なんて思っていたのも束の間。

いざ映画が始まると、そのクオリティの高さに圧倒され、灯野のことは気にならなくなっていた。


「はぁ……面白かった……!」

「な、最後の展開とか、手に汗握るって感じで、すげぇよかったよな。」

「うん、原作小説の世界が丁寧に表現されてて、何度見ても感動で胸がいっぱいになるよ……。

ほんと、誘ってくれてありがとね。」

「おう。俺も見れてよかった。……まだ時間あるけど、どうする?」

「もし灯野が大丈夫だったら、どこかでお昼ご飯食べない?私、まだ映画の余韻がすごくて。」

「じゃあどっか入るか。」

「うん。」


その後、私たちはお昼ご飯を食べながら、たくさん話した。


映画が面白かったこと、原作小説の続編のこと。

それから、今の私たちのことも。部活がどうで、友達がこうで。話は尽きなかった。


灯野とは、どうしてか話しやすい気がする。

昔からよく話してたからかな。


その後は、お互いの買い物を済ませて解散となった。



最初の頃にはあった緊張も、いつの間にかなくなっていた。


(今日は、本当に楽しい一日だったな……。)


たまたまチケットが余っていたから遊ぶことになったけど、これからはもう、こんな機会はないかもしれない。

できることなら、また……。



今度は私から誘ってみようかな……なんてね。

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