2. 映画ともう一度

映画ともう一度

「なあ晴人はるひと、映画のチケットもらってくれないか?」


帰りのホームルームが終わり帰宅しようとしていた俺に、友達の柊崎ふきざき あおいが話しかけてきた。蒼は凍ノ瀬いのせのいとこで、小さい頃からよく三人で遊んでいた。顔が整っており、勉強も運動も軽々とこなすイケメンだ。


「チケット?」

「ああ。父さんに2枚もらったんだけど、期限が明日までなんだ。でも、俺は明日予定があってさ。もし晴人の予定が合うんだったら、もらってくれないかなって。」


明日の予定を思い出してみたが、幸いにも何の予定もなかった。


「ならもらってもいいか?」

「もちろん。おかげで無駄にせずにすんだよ。」

「そうか、ありがとな。楓が明日暇だったら、楓と行ってくるわ。」



山和やまわ かえでは、俺と蒼の共通の友達だ。表情豊かで、誰にでも優しく笑顔で接することのできるいいやつだ。


「ああ、楓にもさっき声をかけてみたんだけど、明日は予定があるってさ。」

「マジか、誰誘うかな……。」

「……誰もいないなら、水季みずきちゃんなんてどう?」

凍ノ瀬いのせ?」

「ああ。この映画はこの前見たらしいんだけど、もう一回見たいってこの前言ってたからさ。」

「へぇ。」

「ほら、昔はよく水季ちゃんと話してたけど、最近は全然なんだろ?

この機会にまた話してみてもいいんじゃないか?」


確かに小学生以来、どうにも恥ずかしさがあり、凍ノ瀬とはあまり話してこなかった。蒼の言う通り、この機会にまた凍ノ瀬と昔のように話せたらいいよなとは思う。

だが、凍ノ瀬を誘って映画に行くということは、それはつまり……。


「晴人が言いにくかったら、俺から誘ってみようか?」

「……いや、俺が言うよ。ありがとな。」


(誘うっつっても、もう凍ノ瀬帰ったよな……。あとで電話してみるか。)

蒼に別れを告げ、ひとまず家に帰ることにした。




その夜、予定通り凍ノ瀬に電話をかけようと挑んだ。だが、やはり自分から女子を誘うと思うと、緊張して仕方がない。

(……もう、なるようにしかならねぇよな。)

電話を手に取り、凍ノ瀬へと電話をかけた。


灯野ひの、どうしたの?』

「夜に悪ぃ。明日のことで話がしたくてさ。」

『明日?』

「ああ。蒼に映画のチケットもらったんだけど、期限が明日まででさ。楓も行けねぇから、凍ノ瀬が良ければ一緒に行かねぇかなと思って。」

『へぇ、なんて映画?』

「『空模様は今日も。』っていうやつ。」

『それ、私がもう一回見たかった映画……‼』

「ああ、蒼にそう聞いたから、どうかなって。」

『行く、行きたい!』

「!ほんとか、じゃあ、明日の10時に駅前に集合な。」

『うん、誘ってくれてありがとう、灯野。』

「おう。」


話しているうちに、緊張はどこかへ消えていた。凍ノ瀬は俺と映画に行くことに、何のためらいもない様子だった。

……俺の気にし過ぎだったみたいだな。



明日はどんな一日になるのか、期待で胸が膨らんだ。

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